2017年1月8日日曜日

釜山の慰安婦像設置はのんびり眺めるべき

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韓国政府が2015年12月の日韓合意でソウルの慰安婦像撤去に努力する事を約束したとされる状況で、同様にウィーン条約に反する事になる釜山の慰安婦像が設置された事に関して、日本政府が韓国政府に抗議を行ない、ネット界隈の世論も揺れている。韓国政府や韓国社会を糾弾する声が多いのだが、あちらの事情をもう少し分析的に見ていこう。日韓合意がどうなるのか見通しは悪かったのだが*1、今までの韓国政府は頑張ってはいる。慰安婦像の撤去は日本にとっても小事であるし、間違うと大きな問題に波及しそうなので、事を荒立てないように見守る方がよさそうだ。それに慰安婦像自体も、時間を置く方が撤去が容易になる。

1. 韓国一般市民の認識は90年代から変わっていない

日韓で事実認定に差があることは忘れてはいけない。今では否定されているのだが、朝鮮半島において家庭から官憲が少女を連行して従軍慰安婦にしたと言う、慰安婦は無垢な少女であったと言うイメージは、今なお韓国では維持されている。実際、韓国外交部が日本にそれを主張したか、外交文書を確認しようと言う動きがある*2。90年代に事実無根の再現ドラマが多く流されていたのが定着してしまったのでは無いかと思うが、一度定着した思い込みはなかなか更新されない。日本だってそうだし、センシティブな話題で異説を許さない儒教社会では批判する事も難しいであろう。今なお韓国政府要人の一存だけで、動かせない問題である。

2. 日韓合意後、韓国政府は反対派切り崩しに努力してきた

日韓合意後、韓国政府はかなり積極的に合意維持のために動いている。90年代に関与を避けて挺対協らの増長を招いた事と比較すると、劇的に姿勢が変わったと言って良い。韓国国内では政府要人が慰安婦への個別訪問を行い、残る過半数の元慰安婦が日韓合意を受け入れることとなった*3。韓国国外でも、体感レベルの感想だが「アメリカでも慰安婦問題を鎮静化させようと涙ぐましい努力をしていて、日本政府より先回りして慰安婦像設置の阻止や歴史教科書での扱いを縮小させるような働きかけをしていた」そうなので同様と言ってよいであろう。

3. 元慰安婦を含め強硬に反対している人々は少数派

人権活動家は被害者の意志を強調するが、強硬に反対している元慰安婦はもはやほとんどいない。アジア女性基金の償い金を受け入れた元慰安婦も相当数いるし、その後、亡くなられた人々も数多い。そして今回の日韓合意に強硬に反対しているのは少数のようだ。あと何年かしたら強硬に反対し続けるのは元慰安婦の遺族のみになるであろう。また、韓国一般市民の関心も薄れている。日韓合意後、朴槿恵大統領の支持率はほぼ変化が無かった。朴槿恵大統領の辞任要求デモでも、日韓合意を批判するものよりも、セウォル号沈没事故時の対応を批判するものが多かったと言う。もはや慰安婦問題に関する運動は、下火になりつつある。

4. 韓国の政治情勢が悪いので統治能力が落ちている

現在、朴槿恵大統領の弾劾手続き中で、韓国政治はリーダーシップを欠く。矢面に立つべき、外交の最高責任者である大統領がいない。もう代わりがいないので、さらに弾劾不能になっている今の方がリーダーシップがあると言う話もあるが、普通に考えればリーダーシップを欠く。さらに、慰安婦像の設置や撤去は地方自治体の管轄になる。政府が地方自治体を直接コントロールするのは難しい。日本でも東京都が尖閣諸島を購入しようとする動きを政府は直接止める事はできなかった。地方自治体としては、勢いが衰えたとは言え左派系団体だけではなくメディアも一般市民の意向に反する行為なので、何かの拍子に抗議運動が大規模に拡大するリスクを考えざるをえないから、外交担当でもないし矢面には立ちたくない。こういうわけで、韓国政府の統治能力が一時的に落ちている。

5. 慰安婦像の撤去は早くても数年先

予言は外れるのでしたくは無いのだが、こういうわけで慰安婦像の撤去は早くても数年先だと思われる。大統領の弾劾手続き中は動けないであろうし、その後は大統領選挙になるかレームダックの朴政権になるし、元慰安婦が生存中に左派勢力と直接対決するのは今後の政権も避けるであろう。こう書くと永久先送りになりそうだが、世情は韓国政府が動けるようになってきている。焦らず諦めないことが肝要だ。

日本政府としては撤去を要求し続ける一方で、日韓スワップ協定などの外交交渉を止める事は悪くはないと思うのだが、どちらにしろ韓国政府に打つ手が無さそうなのでのんびりと眺めていくしかない。ネトウヨさん達には満足いく成果ではないが、韓国政府はそれなり頑張っているし、韓国国内には無数に慰安婦像があるわけで、日本の在外公館の前にある二つを撤去させても大きな変化ではない事は認識すべきだ。

6. 慰安婦像の撤去は日本政府にとっても小事

日本政府も大きな声では言いたくないようなのだが、日韓請求権協定に定められた調停委員会で賠償請求が可能なことを確認しろと言う2011年の韓国の憲法裁判所の命令が満たされたことにするのが、日韓合意の最大の目的である。韓国の国内問題に思えるが、日本としても第三国を交えた調停委員会の設置は、少なからずリスクを伴う外交になる。

もう一つ日本政府(そして韓国政府)には重大な目標があって、2012年の韓国大法院の請求権協定の解釈を、何とかして覆さないといけない*4。これ、日韓請求権協定に関して、1965年からの日韓の合意事項を引っくり返す判断になっている。この判決に沿うかたちで、韓国司法は戦時徴用工問題で日本企業に次々と賠償を命じているのがここ数年の流れだ。韓国政府はのらりくらりと無視しているが、真面目にとると日韓国交断絶になりそうな話である。

慰安婦像を無理に撤去してもらえることが仮にあったとしても、4月ぐらいに予想されている大統領選挙で反発した韓国国民が左派政権を選択でもしたら、どういう結果がもたらされるかは想像がつかない。ブレグジットもトランプ旋風も帰結を予想できなかったが、情緒に流されやすいという韓国国民がどこに突っ走っていくかはさらに予想が難しい。

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