2017年1月25日水曜日

南京事件論争の決着に必要なのは犠牲者の数や年齢や性別を推定するための発掘調査

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先日のエントリーに対して「わざわざ中国共産党が発掘しないことをかんぐる人々は、南京軍事法廷で死体の発掘をしていることすら知らないのだろうか」と言う反論が来たので拝読してみたのだが、当時の発掘調査では現在の論点に答えを与えない事に気づいていない残念なものであった。この発掘からは、犠牲者数に関して当時の記録の信憑性を裏づけし、犠牲者の数や年齢や性別を推定するための情報は示されていない。これでは日本軍が民間人を計画的に大量に殺傷したか否かと言う論争*1に対して何も答えない。ゆえに、新たに発掘調査を行なう意義が十分にある。

ネット左翼の皆様は南京大虐殺のポイントではないと思っているようだが*2、中国政府が「30万人」と「民間人の大量殺害」と言い続けているのは確かで、「日中歴史共同研究」でも、作成段階で犠牲者の人数や属性が議論になった*3。また、ネトウヨの皆様やアパホテルの経営者は、「中国」と「30万」にこだわっているところから、ネトウヨの皆様は、日本軍が民間人を計画的に大量虐殺したために犠牲者数が30万人に膨らんだと言う中国政府の主張に不満を持っていると考えられる。そして、計画性の有無は、南京事件が日本軍の異常な残虐性による結果なのか、戦時下においてよく生じる混乱の結果なのかを判断する重要なポイントだ。

民間人を計画的に大量殺害したことを示す文書などは見つかっていない*4ため、中国政府は何十万人もの民間人の犠牲者がいることをもって、何らかの計画性があったことを主張したいようだ。裏を返すと被害者数が少なければ偶発的な事件だと判断する事ができるので、ネトウヨの皆様は被害者数が相対的に少ないと主張し、戦時下においてよく生じる混乱の一つだと矮小化しようとしている。どちらもはっきり言語化してくれないので分かりづらいのだが、中国政府とネトウヨにとって、犠牲者の数や年齢や性別は決定的に重要だ。ところが周知の通り、これらに関しては良く分かっていない。

著しく物証を欠く状況なわけだが、南京事件は他の歴史論争と異なり、物証を容易に増やす事ができる。中国共産党が自説の根拠としている紅卍字会と祟善堂の埋葬記録なので、埋葬された場所の発掘調査を行い、紅卍字会の4万3123体、祟善堂の11万2267体、合計して15万5390体に近い遺体が発掘されれば、中国側の証言の信憑性は一気に増し、さらに性別や年齢から非成人男子の比率が分かるだろうから民間人の死者割合が推定できる。死因が銃弾か刀傷かによっても、当時の状況の整理には役立つであろう。非成人男子に刀傷が多ければ、南京攻略戦の犠牲者が大半とは言い難い。紅卍字会と祟善堂の埋葬記録の発掘による検証は、主張が真実である限り、中国側の主張を強く裏付けることになる。

中国政府も記録を歴史に残すべき事件としているわけだし、人民日報の記事からは南京事件で色々と不明な点があることは気にしていることが分かるし、今の中国政府にお金が無いと言うわけでも無いだろうし、日本政府に資金と調査員を要請することもできる。南京事件への個々の見解を問題視するぐらいであれば、疑念をなるべく晴らした方が建設的だ。そう難しい話では無いと思うのだが、そうしない所が興味深い。

*1南京軍事法廷判決を読む限りはそう主張していると解釈できるが、常日ごろ捕虜ではなく民間人を計画的に大量殺傷したと明確に主張しているわけでは無いようだ。

*2民間人の殺害だけが問題ではなく、捕虜を裁判もせずに処刑するのは問題であるし、戦闘意欲が無くなった逃亡兵を便衣兵(ゲリラ兵)と認定するのは国際法違反であると思われるし、さらに裁判をしなかったわけで、便衣兵と誤認されて処刑された民間人が多数いる蓋然性も高い。ネトウヨの皆様は逃亡兵の殺害を正当化しようとしているのでこれらも論点ではある。しかし、「30万」と言及しているときに想定しているのはこれらでは無いであろう。

*3学術対話:日中歴史共同研究における南京大虐殺」を参照

*4南京安全区国際委員会の文書などから推計したものを読むと、50名から60名ぐらいの民間人犠牲者数になっている。人数に関わらず痛ましい話ではあるが、この人数では計画性を認定することが出来ない。スマイス報告を参照すれば数万人規模となるが、南京攻略戦と南京事件のどちらの犠牲者か判別がつかないし、国民党軍の行為や病死者の混入などの可能性も排除できていない。混乱下における聞き取り調査で、死亡・失踪したと思っていた人物が後日出てくるなどの事もあったはずだ。2000年に作成が開始された南京大虐殺犠牲者名簿も、事件後63年経ってからの聞き取り調査が主体のようだし、現状では1万名強と30万人には届いていない。

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