2017年1月1日日曜日

シリア内戦の帰結をオバマ政権の失敗と言う前に

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反政府勢力の一大拠点であったアレッポ陥落後、アサド政権を支えるロシアと反政府勢力の黒幕トルコの間でシリア停戦案が合意に至った。反体制派は合意しているとは報じられていないが、最初の反体制派である自由シリア軍はトルコ領内から進撃を開始しており、トルコが最大の支援国であると考えられている。米国もトランプ政権で支援拡大をするとは考えづらく、サウジアラビアとカタールは金銭援助しかできないであろうから、反体制派が抵抗を続ける術はほとんど無くなった。

さて、この反体制派の敗北と言う帰結を、オバマ政権が直接軍事介入をしなかった事による失敗のように議論している人々がいるのだが*1、シリア情勢を理解する上で重要な要素を無視している。反体制派がどういう性質の人々であるか、彼らが統治するようになったらどうなるか、説明すらしていない。

もちろん反体制派を整理して、反アサド以外の統一的な性質を見出すのは無理難題である。反政府勢力は武装勢力の寄り合い所帯で、指揮系統すらできていない事は広く報じられており、シリア政治の専門家である髙岡豊氏によると「世俗的な当事者、宗教的な当事者、クルド人のような民族主義的な運動、そして外国人戦闘員のようなシリア人の生命・財産やその将来を一顧だにしない者まで多様化」することで、「アサド政権に対する有効な闘争も、諸外国の利己的で恣意的な関与に対しシリアの将来像を提示して自己主張することも、できないでいる」(SYNODOS)。万が一アサド政権が倒れたとしたら、反体制派の内部で権力闘争が開始される事は十分あり得る。

アサド政権の長期にわたる政敵であるムスリム同胞団が政権をとったらどうなったであろうか。2011年の「アラブの春」におけるデモ活動の弾圧で介入すれば、他もまだいなかったので、ムスリム同胞団が支配的な勢力になったのは間違いない。エジプト革命後、デモを煽っていたムスリム同胞団出身の大統領が選出された。自由シリア軍のシリア侵入から2013年の毒ガス利用疑惑のタイミングで介入すれば、自由シリア軍が支配的な勢力になったと考えられるが、彼らはムスリム同胞団の構成員を多く抱えていると言われている。トルコの影響力が増すであろうが、やはりムスリム同胞団が一定以上の力を持つ事になったであろう。このムスリム同胞団、中東で広く活躍する宗教色が強い政治結社で、建前とは異なり民主主義の擁護者では無い。エジプトでは独裁色を強めて民衆の支持を失い軍の革命返しにあった。また、政権転覆のためには虚偽の情報を流すのも厭わないようだ。エジプトのときはムバラク大統領が何兆円もの隠し資産を持っていると言うニュースが流れたが、未だに該当するものは出てきていない。

統治能力で観た場合、アサド政権が倒れた後の状態が良くなる可能性は低い。統治能力ではなく、もっと素朴に善悪の観点から見ても、どちらがどちらとも言えない。アサド政権は善良だとは言えないであろうが、反アサド派も同様だ。アサド政権は市街地に空爆をしているわけだが、反アサド派は一般市民を人間の盾にするべく市街地に潜伏しているわけで、死傷する子供を増やそうとしている。被害者が出たら欧米メディアに映像を撮ってもらうことで、欧米世論のアサド政権への批判を増やす事ができることも、計算に入れているのであろう。シリアの状態ではなく米国の利益と言う観点で見ると、2016年現在ではロシアが中東に影響を及ぼすと言う意味でアサド政権は望ましくないが、2011年、2013年時点ではこの問題は無かった。むしろ、二代目のバッシャール・アサドになって独裁色を弱め、市場主義経済への移行姿勢を見せていたわけで、米国にとって不都合な相手であったわけではない。北朝鮮のように無闇に国際社会との対決姿勢を示していたわけでもなく、シリア-イラクの国境管理の強化など米国の要望も聞いていたし、ロシアの仲介によるものだが化学兵器の撤廃にも応じている。

何はともあれアサド政権を排除する事で得られるものが何かを評価できなければ、アサド政権を排除しなかった事が失敗だとは言えないであろう*2。だからこの観点が抜けている論者は、シリア問題を真面目には考えていない。

*1アレッポ陥落、オバマは何を間違えたのか? | 冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

*2むしろアサド政権を親米政権に出来なかった事、ブッシュ政権の強硬姿勢を方針転換しなかった事が不可解なのだが、シリアの人々のためにアサド政権が絶対悪だと思い込んでいる自国民からの支持率を失うのは、政治家として愚かなことなのかも知れない。

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