2016年7月23日土曜日

リベラル左派がヘリマネに関して知っておくべきこと

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にわかに新聞などでヘリコプター・マネーが言及されるようになってきた。元FRB議長のバーナンキ流の定義だと*1、国債の発行無しに中央銀行が政府に通貨を譲渡し、政府がそれで減税や歳出を行う事を指す。国債と違って金利もつかないし借り換えの必要も無いので、人々が将来の増税を予想しないであろうと言うのがポイントになる。政府紙幣に近い仕組みだ。

さて、リフレ派に何かといじられるリベラル左派の皆様が知りたいであろう事を考えてみたい。ヘリマネは機能するのであろうか。そして、ヘリマネは今の日本に必要なのであろうか。

1. 効果は期待できる

実現できれば、何かしらの効果を持つ事は予想される。まず、実際に、政府歳出の拡大をもたらすので、量的緩和と異なり実体経済に中立的とはいかない。次に、政府が財政バランスを気にしなくなるのも確かであろうから、増税の可能性も随分と低くなるであろう。リカード家計であっても、将来増税に備えて貯蓄を溜めることは無い。実際には、永久国債を中央銀行が保有する形態になること、永久国債として知られる英国のコンソル公債も償還されたことから機能しないと言う疑念もあるが、無利子かマイナス金利の債券を償還をする誘引は、財政バランスの観点からは政府に働かない。

2. 実行すべき理由が無い

効果があっても問題がある。現在の経済状態でそれをすべき理由がほとんど無い。景気対策は不況のときに行うものだが、今の日本は不況ではない。現時点では雇用はかなり堅調で、需給ギャップもほとんど無くなった*2。大恐慌のときのように、失業率が25%に達してなお悪化しそうな経済状況であれば導入を検討すべきなのかも知れないが、失業率が3.2%に改善してきた今の日本経済にそういう状況ではない。さらにエネルギー価格の変動に左右されにくいコアコアCPIをみると、雇用改善に応じてインフレ率も上昇してきている*3。新たな景気対策が必要とされる局面ではなくなっているわけだ。

3. 実はインフレ目標政策の目的とは合致しない

導入を言い出してきているリフレ派から見ると、インフレ目標2%が達成されていないことが気になるのかも知れないが、ヘリマネなどをしたらインフレ目標政策の本来の目的を放棄することになりかねない。インフレ目標政策は、著名なマクロ経済学者の伊藤隆敏氏の言葉を借りれば、「市場にきちっとした物価目標を提示することで、インフレ期待の安定と、金融市場の安定性を確保する」ものだ。要するに、中央銀行の行動を人々に予測させやすくするのが、そもそもの機能である。デフレのときに導入すれば、中央銀行のインフレ許容度を明らかにすることによってインフレ期待を引き上げる効果もあるが、副次的なものだ。ヘリマネのような金融市場が未経験な政策を安易に導入すれば、市場の安定性を欠くことになるので、インフレ目標政策の当初の狙いを逸する事になる。ヘリマネは金融政策と言うよりも政治に左右されやすい財政政策であるわけで、インフレ目標からそれを予想することは困難である。実際に、導入を巡って様々な憶測が飛ぶ事態になっている。

*1一部の経済評論家が財政赤字と中央銀行の国債購入に矮小化して説明しているが、それだとヘリマネをしている国だらけになるので、有益な定義にならない。

*2日本銀行で出している『需給ギャップと潜在成長率』では以下のようになっている。

*3フィリップス曲線を描くと、以下のようになる。

2 コメント:

asd さんのコメント...

初めまして。潜在成長率という数字は過去の実際のGDPから推計されるものであり、もしそのGDPが総需要不足という足かせをはめられたGDPであった場合、現実には総需要不足が存在していたとしても総需要不足を非常に過小に計上しますよ。

uncorrelated さんのコメント...

>>asd さん
潜在成長率と言うか、需給/GDPギャップの推定は過去の資本と労働の平均稼働率から推定されるのは確かですが、現在の状況を表すある種の指標になっている事は確かです。また、雇用水準でも好景気であることは示されるので、それだけに論拠があるわけではありません。

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