2014年7月28日月曜日

普通の人は見落としてしまう小保方博論騒動の論点

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世間では沈静化しつつあると思うSTAP幹細胞疑惑の理研・小保方晴子氏だが、学術の世界では博士号の扱いが話題になっている。小保方氏の博士論文にも不正があると言う疑惑だ。事態を重く見た早稲田大学は調査委員会を組織し、調査を行った。

先日、調査委員会が結論を出したのだが、その主張は困惑を招くものであった。不正行為があると認定する一方で、学位取り消しにあたらないとしたからだ*1。これに対して早稲田大学の教員有志が異議を唱えている*2のだが、そのポイントはよく理解されていない*3ようだ。

1. 査読論文があるのに博論がダメなのは指導のせい?

日本の大学院の多くでは、査読論文の掲載本数を大雑把な研究能力の認定に使っている*4。査読論文とは、専門家が投稿された論文の内容を吟味して掲載の是非を決める学術雑誌に掲載された論文のことを指す。博士号はある分野で一定水準以上の研究を行い公表する能力を保証するものであるから、査読論文は有力な指標となる。

小保方氏はTissue Engineering誌に掲載されている査読論文を土台に、博士論文を作成した。早稲田大学の調査委員会は、査読論文があるのだから小保方氏には立派な博論を書き上げる能力があったと認定し、教員の指導不足と杜撰な論文審査と言う早稲田大学の問題により、実際の小保方氏の博論が水準以下になったと考えた。

2. 査読論文も不正が疑われていて研究能力を示さない?

これに対して、早稲田大学の教員有志が異議を唱えている。調査委員会はベースとなるTissue Engineering誌に掲載された査読論文を重視しているが、それにも大きな疑惑があるからだ。実際、この査読論文は改竄が指摘された4つの遺伝子群のデータを削除する形で修正されている。また、その訂正内容を見ると、撤回でもおかしく無いそうだ。

Tissue Engineering誌はSTAP幹細胞疑惑の当事者の一人であり、小保方氏の博論の学位審査を行ったハーバード大学のVacanti教授が創刊者兼編集者(founding editor)となっている。Vacanti教授は小保方氏を擁護している事から、編集部に圧力をかけて、撤回ではなく修正に留めた懸念もあるようだ。

3. 早稲田大学が一方的に査読論文を不正認定できるか?

他にも論点は色々とある*5のだが、早稲田大学の調査委員会と教員有志の論点は、Tissue Engineering誌掲載論文の不正の有無に焦点があてられている。学術雑誌に査読論文があることが研究能力を機械的に示すとするのか、査読論文に不正が疑われる場合は研究能力を疑うのか、指標をどう扱うかで見解が分かれている。

盲目的に外部評価に依存するのには違和感が残ると思う。学術雑誌の出版に公的な認可がいるわけでもなく、権威があるとすれば伝統と編集の名前ぐらいだ。しかし、調査委員会が問題の査読論文を不正と認定すると、Tissue Engineering誌の編集部の見解と食い違うことになる。査読論文が不正で撤回されたのではなく、疑惑を残しながらも訂正で済んでいるからだ。法廷闘争を考えると、これは必ずしも有利ではない。小保方氏とその弁護人は、早稲田大学の方がおかしいと言い張ることができる。

*1早稲田大学 大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会 調査報告書

*2「小保方氏の博士論文に学位授与ありえない」早大教員有志が調査委の報告書に「異議」

*3「学位授与はあり得ない」 小保方氏の博士論文調査報告に早大教授らが異議 - ITmedia ニュース』では、教員有志が一番目にあげたTissue Engineering誌の不正疑惑について言及していない。

*4掲載まで時間がかかる理論では要求されないことが多いし、また、国外の大学院では査読論文の本数は条件にされないのが通例のようだ。

*5小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑」によると形式的な部分にも粗が多いが、いずれも重要度は低い。早稲田大学が受け取っていた「本件博士論文」と、最近になって提出された「小保方氏主張論文」のどちらを最終稿を見なすかなどで不正の程度は変わってくるが、調査委員会の論理では大した問題ではない。つまり、Tissue Engineering誌掲載論文で能力は示されているので、不正をする合理的な理由は無く、行われた不正は重大とは言えないわけだ。

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