2012年1月19日木曜日

教科『情報』の不思議カリキュラム

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英Guardian誌に、Michael Gove氏のデジタル・リテラシーに関するスピーチが掲載されていた。Gove氏は英国保守党議員で、現在の教育担当相だ。

Gove氏によると、時代が変化しあらゆる分野に情報通信技術(ICT)が進出しているのに、教育分野はそうではないそうだ。教育分野にICTを導入することで広い層に教育機会を与え、学習方法を改善し、学習進捗の把握を容易にする事が可能になる。また、医療分野などで広くコンピューティングが使われる時代であり、インターネット上の情報共有のあり方も変化しているので、ICTに関するカリキュラムの改善も訴えている。教育用プログラミング言語Scratch@IT参照)の利用にも触れられており、話題になっていた。

1. 教科『情報』の不思議カリキュラム

日本でも必修ではないが『情報』と言うカリキュラムが作られている。この『情報』に関連したセンター試験の科目『情報関係基礎』を見ると、文字をビット列で表現する問題と、グラフ理論的なアルゴリズムの問題と、表計算でカレンダーを作る問題などが出題されていた。

ビット演算やグラフ理論を教えても大半の人には役立たない。ビット演算を理解しないと数値演算をするときの誤差が分からないと言う指摘もあるのだが、そういうのは数値演算をする必要が出てから学習すれば良い。「プログラムはなぜ動くのか」を読めばすぐ理解できる。グラフ理論も同様であろう。表計算など「できるExcel 2010」とか買って読めばいいわけで、学校で教えるべき事かは疑問だ。

もっと高度な事を教えている人もいる。例えばカリキュラムの中にある「モデル化とシミュレーション」を熱心に教えている教員もいるようだが、内容を良く見ると確率・統計の実践授業になっており、むしろ確率・統計にコンピューターを動員した方が合理的に思える(情報Aから情報の科学へ ~「モデル化とシミュレーション」の実践)。まとめと課題を見ると、図表の作成や表計算ソフトの取扱いに四苦八苦しており、数学的な知識が不足しているので理解が進まなかったようだ。大学で教わる統計学のテキストの内容だから、そうなるべくしてそうなっている。

素朴な古典的な数値演算アルゴリズムであるニュートン・ラフソン法を教えたとしても、テイラー展開が出来ないと何を計算しているのかも分からない(関連記事:Rでニュートン・ラフソン法)。そして指導要領では高校生にテイラー展開は教えないようだ。コンピューターには習うより慣れろ的な面と、情報工学的に学習すべき面があるわけだが、高校生に前者を教える必要性は低く、後者を教えるには基礎が不足している。

2. カリキュラムの見直しが必要

産業界からはICT基礎科目の必修化が求められているのも事実で、コンピューターを使って何かをする事に慣れておく事に必要はあるのであろうが、そこに丸暗記すべきような知識は無いし、正確に理解している事を試す必要もない。実際はエラー・メッセージを検索する事で、日々の問題は解決されていっている。つまり、体育や習字的な扱いで十分で、少なくとも試験で知識を競うものでは無いと思う。

現行の『情報関係基礎』のセンター試験での取扱いは数ⅡCとの選択科目で『簿記』や『工業数理』と扱いが同じなのだが、新たに数Ⅰとの選択科目で『情報』を追加する動きもあるようだ。「教科『情報』」に関わる教員などの権益拡大だと解釈して良いと思うが、それが教育内容に見合うものかは再考して頂きたいように感じる。

最後に気になった事が一つある。センター試験では「センター試験用手順記述標準言語」(DNCL)という独自のプログラミング言語を使用しているそうだ。特に学習にコストがかかるような代物ではないが、これならばC言語(C95)のコードでいいであろう。もしC95でも複雑で簡素化が必要と言う事であれば、最初から試験などしない方がいい。

1 コメント:

tnk さんのコメント...

センター試験で特定の言語を用いていないのは,教育の世界では特定手法への依存を避ける考え方があるからだと推測します.同様に,教育指導要領には「EXCEL」とは書かず,「表計算ソフト」と書くようです.

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