2016年8月31日水曜日

リフレ派が書いた学説史「不平等との闘い」

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明治学院大学の稲葉振一郎氏の『不平等との闘い』をざっと読んだので、紹介と言うか難癖つけて行きたい。

本書は、どちらかと言うとマルクスなど思想史の方に親しんでいてマクロ経済学を専門としていない著者が、資本所有における不平等の解消の必要性と方法を考えた意欲作。どちらかと言うと実証的な議論が多く紹介されていて、規範的な議論は薄い。経済学史なので、統計的な話もほぼ無い。資本の初期分布がマクロの生産に影響すると言うアイディアが、(1)古典派経済学、(2)マルクス経済学、(3)新古典派経済学、(4)不平等ルネサンス(1990年代ぐらいからの新古典派経済学)、(5)最近のピケティでどのように扱われてきたかを、資本市場の有無と技術進歩を鍵として見ていく部分が主だと思う。そして、どさくさに紛れてインフレーションによる物的資本の格差の解消を主張している。

2016年8月22日月曜日

会計がどう社会に受容され、どう歴史に影響して来たかが分かる「帳簿の世界史」

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一部の界隈で評判が良かったので、簿記技術や会計制度の発達史を期待して「帳簿の世界史」を読んでみた。帳簿とその監査で構成される会計がどう社会に受容され、どう世界史に影響して来たかが書かれていた本。経済危機に関心がある人には、興味がそそられる逸話が多く紹介されている。原題は「決算 - 財務説明責任と国家の興亡」と言った感じで内容にあっているのだが、これでは売れないと思ったのか、出版社もしくは訳者の意向でちょっとミスリーディングなタイトルになっていた。こういうわけで、会計制度の発達については少し言及されるが、ほとんど説明はされない。

2016年8月20日土曜日

ちゃんとラノベになっている「浜村渚の計算ノート」

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数学を素材に使った小説が読みたい。数学ラノベと言うと「多様体の基礎」が言及される事が多いが、実はこれは小説ではない。皆様がすぐに想像するシリーズは読んでは見たのだが、キャラクター設定に違和感が残る一方で、ストーリー性が低い所が微妙だった*1。やはり数学を題材とした小説には無理があるのかと思っていたが、まだ「浜村渚の計算ノート」があった。一冊目を一回読んでみた。ちょっと惜しい感はあるのだが、読みたかったのは、たぶんこういう話だった。

緊縮財政を主張する全ての皆さまへ

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この呼びかけで、カルビン・クーリッジ第30代アメリカ合衆国大統領の「必要以上の税を集めるのは合法的強盗である」と言う言葉が引用されていた*1。リフレ派の人が、反緊縮のメッセージだと受け取ったらしい。米国史に詳しい人は噴出してしまうかも知れない。これは減税を推進するメッセージではあるのだが、緊縮財政を否定するものではないからだ。むしろクーリッジ大統領は、緊縮財政の守護天使のような存在であった。

2016年8月19日金曜日

分配側GDPの試算を非難する前に

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GDPはプラス成長だった?日銀・内閣府が論争」で日経が取り上げた事もあり、日銀の金融研究所が出しているワーキングペーパー、藤原・小川(2016)『税務データを用いた分配側GDPの試算』がネット界隈で人気だ。なぜか論文自体をほとんど読まずに悪く言って回っている人がそこそこいるようなのだが、だいたいポイントを外した批判になっているので指摘しておきたい。皆様が思うほど恣意性があるわけでも、政治的な意味があるわけでもない。

2016年8月14日日曜日

日本政府の徴税権の資産価値はゼロ

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日本政府の債務残高が年々大きくなっていることに対し、ネット界隈のリフレ派は二つの反論を良くしている。一つは、政府と日銀のバランスシートを統合すれば、日銀保有分の国債が消せるので財務が改善すると言うもので、日銀券が負債の部に計上される事を忘れているモノだ。一つは、政府資産を差し引いた純債務で見るべきと言う議論で、財務省が作成しているバランスシート*1から純債務残高を見ると債務超過状態な上に状態が急激に悪化しているので、結論に影響が無いモノだ。初歩的な会計知識や数字を確認する意欲に欠けている気がするのだが、何はともあれ反論になっていない。

2016年8月13日土曜日

政治制度を分類する「代議制民主主義」

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何かにつけて、民主主義の是非や、あるべき民主主義を議論しだす人は現れる。しかし、大抵は現在の政治的手続きに基づいて出てきた結論が、議論している人にとって気に入らないだけであって、理論的に整理されていないのはもちろん、経験的に意味のある議論にはなっていない。どのような形態の制度が望ましいかを語るための知識が不足しているためだ。民主的な制度の中で生活している人でも、一つの制度の一部分を知るに過ぎない。他にどのような制度があり得るかは、積極的に学習する必要がある。

2016年8月12日金曜日

雑誌記事によって誤解されていくピーター・シンガー

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いつもは経済学関係の海外ブログ記事などの紹介をしているhimaginary氏が、生命倫理の世界で物議を醸しつつ、贅沢をするよりは寄付をした方が良いと言って回っているピーター・シンガーに関する、ニューヨーカー誌の記事を紹介している。himaginary氏曰く、「同業の専門家の見解を聞くというのは当該の主張を知る一つの手段」だそうだが、書いているのは一般誌の記者であって同業の専門家でもないし、経済学では同業の専門家の寸評を聞いたところで事前知識が無いと何も分からないわけで、哲学でも記事で引用されている短い発言から何か理解するのは無理であろう。実際、「シンガーの矛盾を突いた箇所」とピックアップしているところは、特に矛盾をついていないし、シンガーの主張を理解するのに役立たない。

2016年8月7日日曜日

ラスカルの「真の失業率」にある恣意的な補正

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ラスカル氏の「真の失業率」推定と言うのがあって、リフレ派に人気だ。雇用環境が余りに悪いと職探しをしても仕事が見つからないので、失業者が求職を止めてしまう事を就業意欲喪失効果と言い、これによって就業者が増えていないのに公式統計の失業率が低下することがあり得る。ラスカル氏は、この就業意欲喪失効果をコントロールしようとした「真の失業率」推定を公表しているのだが、一箇所、かなり恣意的な仮定があって、それによって2009年で0.5ポイントぐらい真の失業率が大きく計算されているので指摘しておきたい。また、その仮定が不適切な理由も挙げておく。

2016年8月6日土曜日

統計的仮説検定の基礎が身につく「サンプルサイズの決め方」

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現在、第二次統計学ブームの最中と言って過言ではないと思う。第一統計学ブームは、戦後、進駐軍がデミングを招いて製造業に統計的な品質管理手法を広めた頃で*1、今はサービス業などでも統計的な分析の利用が一般化しつつあるようだ*2。目新しいモノが好かれるのでベイジアンが言及される事が多いのだが、階層ベイズのような煩雑なモノを使う必要も無く、従来型の、つまり頻度主義的なアプローチで間に合うことは多い。しかし、頻度主義者の基本は統計的検定となるわけだが、そこを十分に理解している人は、意外に少ないかも知れない。学部の統計学の教科書でも、仮説検定に割り当てているページ数はそう多くはない*3