2019年9月19日木曜日

国民経済計算(SNA)至上主義者は一度は読むべき『GDP―〈小さくて大きな数字〉の歴史』

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パフォーマンス評価の測定基準は基準ごとの癖があるのだが、普及すると指標として乱用されてしまう傾向がある。国民経済計算(SNA)の中の一つGDPも例外ではなく、GDP成長率が国政の重要な評価基準のように扱われている。しかし、一般に思われているほど完璧なツールではないし、経済構造の変化により問題点の影響が大きくなってきている。ダイアン・コイルの『GDP―〈小さくて大きな数字〉の歴史』は、SNAの歴史を振り返った上で、このようなGDPの性質と問題点について説明してくれる本だ。

本書のメッセージは次のようなものだ。GDPは生活の豊かさを測る尺度ではなく、生産物および生産力を測る指標であり(p.96)、イノベーションによる財とサービスの質の向上や多様化、グローバリゼーションによる複雑な製造プロセス、サービスや無形資産、無償のオンライン活動、環境や資源などの持続可能性と言う現代経済の複雑さを(ヘドニック指数などの改善があっても)十分に取り込めていない(p.127–128)。特に金融サービス、つまり銀行業については、銀行が取るリスクが大きいほど付加価値が増加する計算が行われており、修正する必要がある(pp.103–109; p.143)。非金銭取引や闇取引などインフォーマルな部分ももっと統計に取り込むべきだ(p.143)。ただし、GDPは生産物および生産力をもっともうまく測れる指標であり、持続可能性についてはともかく、生活の豊かさを測りGDPを補完する有用な福祉指標は人間開発指数(HDI)がすでにある(pp.143–144)し、社会福祉に確実に貢献すると思われる個別の指標を一覧で参照する「ダッシュボード」と言う方法もある(pp.123–124)。

さて、本書の主張自体には特に異論は無くSNAの歴史的経緯については興味深い話なのだが、あれこれ文句をつけたがやはりGDPは有用というような最後の議論には戸惑う人も多いと思う。本書では詳しくは書かれていないが、GDPというかSNAはあれこれに配慮された指標であり、しかも課題については年々と統計の取り方がアップデートされ改善を積み重ねているのだが、本書で説明されるよりももっと詳しい作り方を確認しておかないと良く出来ているようには思えないであろう。本書を読む前に、もしくは読んだ後に、大学の講義で指定されるようなSNAの教科書にも目を通しておく方がよいかも知れない。なお、本書で指摘されている問題については教科書にも説明がある。また、本書では金融サービスの取り扱いについて強く批判しているが、例えば金融サービスをGDPから除外するようなことをすると、スイスなど金融業に依存する国が何も生産していないことになり、それはそれで困ることが書かれていたり*1、視野を広げる助けにもなる。

ところで、国民経済計算(SNA)至上主義者なんて見たことがありません('-' )\(--;)BAKI

*1SNAがわかる経済統計学』の「銀行の帰属サービス(FISIM)」(pp.68–71)では、貸出利子と預金利子との差額である帰属利子をそのまま銀行のサービス生産としていた53SNA、それを中間消費として計上しなくなった68SNA、「間接的に計測された金融仲介サービス(FISIM)」と言う考えを導入し再び銀行のサービス生産を計上するようになった93SNAの説明がある。

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