2022年10月1日土曜日

ウクライナ軍の東部ハリコフ州の反攻で分かること

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ロシアのウクライナ全面侵攻は2022年2月24日に開始されたが、ロシアとウクライナを結ぶ鉄道拠点であるクピャンスク(Kupiansk)は2月27日に、北部からドネツィク州に侵攻する起点となるイジューム(Izyum)州は3月17日、主要都市セベロドネツク攻略の足がかりになるリマン(Lyman)は4月30日にロシア軍に制圧され、その後のドンバス地域でのロシア軍の攻勢を可能にしてきた。

1. ウクライナ軍の反攻

ところが4か月が経過し、8月末からウクライナ軍が南部ヘルソン州と東部ハリコフ州で攻勢に転じて、東部であっさり鉄道と道路の重要拠点であるクピャンスクとイジュームを9月10日に奪還した。これでロシア軍の兵站は細くなり、ここ数ヶ月で占領してきた東部主要都市の維持が難しくなった。現在、ウクライナ軍はリマンをほとんど包囲しており、数千人規模のロシア軍が袋の鼠になっていると報じられている。

2. 両者の戦力が逆転してきた

戦局が大きく動いたわけだが、ウクライナ軍が南部のヘルソン州と東部のハリコフ州で二正面作戦を展開したところ、ロシア軍は南部に兵力を集めたために東部で対抗できなくなったのが主な理由と考えられる。南部でもロシア軍はダムを破壊することで、防衛ラインになっているインフレツィ川をウクライナ軍が渡河するのを妨害しようとしたので、ウクライナ軍が僅かでも優勢のようだ。これは、2月末からの徴兵と西側の援助で兵力増強を続けるウクライナ軍と、開戦からの損耗で弱りつつあるロシア軍の戦力が逆転しつつある事をよく示している。広範囲で作戦が展開できるウクライナ軍に対して、ロシア軍は数が足りていない。

3. 予備役動員では装備と兵站は充足されない

どうするプーチン大統領? — と思っていたら、しないと言っていた戦時動員を30万人を行なうと宣言した。開戦時点での投入兵力は20万人と推定されていたが、7月に損耗して12万人になっていると報じられているので、倍増だ。しかし、これで戦況が変わるかは分からない。総動員をかけて公称で90万人を擁するウクライナ軍の方がまだ倍ほどいるし、動員された予備役の再訓練もままならないようだし、装備や兵站の問題もある。戦車や榴弾砲が増えなければ火力は拡充されないし、装甲兵員輸送車が無ければ兵員を迅速に展開できないし、補給線が太くなければ兵員は活動を続けられない。

4. 通常兵器ではロシア軍は勝てない

ロシア軍の勝ち筋が不明瞭になってきた。当初の電撃作戦による首都キーフ攻略によるウクライナ政府の無力化が頓挫した後は、占領地を拡大するか、状況を拮抗させつつウクライナの疲弊を待つ持久戦に切り替えたように見えたが、ロシア軍が数で圧される展開になってきた。ウクライナは数年で瓦解するかも知れないが、ウクライナにいるロシア軍が先に殲滅される可能性も低くは無い。それどころか予備役の動員で、徴兵事務所に襲撃事件が起きるなど、ロシア世論に動揺が見える。訓練と装備に劣る兵員を大量に死傷させれば、プーチン政権が支持基盤を失い、軍に反乱を起こされる可能性もある。

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