2022年2月15日火曜日

オープンレター「女性差別的な文化を脱するために」の差出人と賛同者が負うかも知れない法的責任、負っている道徳的責任

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「人をクズ呼ばわりするのに法的な根拠は一切いらない」と断言し「あなたは最低だと思います」「やっぱりキモいオヤジですね」「○○○○はボケクズ」と言うツイートをすることもあった武蔵大学の北村紗衣氏*1らが差出人となって出したオープンレター「女性差別的な文化を脱するために」だが、文面などが不法行為になっている可能性が幾つかあると一部の弁護士から批判されている。

1. 不法行為になりそうな点

はっきりした主張は多くは無いのだが、問題となりうるのは、

  1. オープンレターの趣旨からして不必要なのに、呉座氏の名前を15回も連呼している
  2. 呉座氏の過去発言が実際よりも過激なものだと受け取られる恐れがある
  3. 呉座氏の行為を不必要かつ長期間にわたりネット上で断罪している*2
  4. 賛同者になることを承知していない人物が、賛同者にリストされていた*3

と言うところだ。(1)から(3)については呉座氏が、(4)は賛同者が訴訟を起こした場合、名誉毀損などの不法行為が認められるかも知れない。もちろん不法行為として認められるためには、被害者が訴訟を起こし、裁判官が認定する必要があり、もし認定されたとしても多人数になるため、ひとりあたりの賠償金額は限定的になる。

ジェンダー社会学者の小宮友根氏が呉座氏への社会的制裁を要請する文面ではないと主張しているが、差出人はオープンレターの全内容に法的責任を負う。ある弁護士いわく、賛同者も同様だそうだ。適法とする弁護士も観察範囲で2名いるが、裁判官がどう判断するかが問題になるし、日本では類例のない行為なので予測可能性が低い。呉座氏も地位確認訴訟が決着すれば、オープンレター差出人を訴える支障は低くなる。

2.「事実」の摘示にある問題

差出人・賛同者はオープンレターで言及した呉座氏の振る舞いの根拠となる、呉座氏の発言を前後のツイートを含めて確認していることになっている。しかし、本当に全員が呉座氏の発言を確認しているのかは疑わしい。呉座氏の数年間の発言を追いかけることがそもそも労力な上に、呉座氏が発言を消去しているために困難だ。2021年3月20日に呉座氏が謝罪し、3月24日には呉座氏の発言の複数のまとめが非公開になった後、4月4日にオープンレターは公開されている。

私がネットに残っていた呉座氏の発言を確認した限りでは*4、オープンレターの冒頭で指摘された呉座氏の行為の根拠は希薄だ。オープンレターでは、呉座氏は北村氏とその他の女性への誹謗中傷を数年間に渡り続け、女性蔑視発言を繰り返していたと主張されている。しかし、呉座氏の北村氏への言及は、北村氏の言行に対する批判の範囲と認められる程度のものが多そうであるし*5、北村氏以外の女性への言及の痕跡は確認できず*6、女性蔑視の範囲になりそうなのは、女性マンガ家はマッチョ男性を描くのが下手と言う主張しか確認できなかった*7。なお、呉座氏は多様な人物を批判しており、その対象はほとんどは男性であったとされる。

北村氏以外の差出人と賛同者は、北村氏の申し立てを信じれば足ると言う主張も見かける。しかし、被害者は加害者のことを過剰に悪く言い勝ちな面はあるし、大学教員だからと言ってその呪縛から逃れられるとは限らない。やはりオープンレターの事実の摘示が妥当なものか、差出人・賛同者は検証すべきだ。

3. 差出人と賛同者にある法的、道義的責任

オープンレターの趣旨は違うと言っても、呉座氏の行為を指摘する部分で名誉毀損があれば、差出人と賛同者は不法行為を問われうることになる。もちろん呉座氏が訴訟を起こし、裁判官が名誉毀損と認定しなければ、違法行為と認定されることはないが、差出人と賛同者が呉座氏の発言について詳細に検討していないのであれば、それでも道徳的責任を放棄している行為だ。状況から考えて、賛同者の大半は呉座氏の発言を詳細に検討していない蓋然性は高く、差出人も多数になっていることから同様の人も多いかも知れない。差出人と賛同者の皆様には、他者の非を言及するときに生じる自分の責務をどれぐらい果たしているか振り返って欲しい。もし、十分に責務を果たしていないと言うのであれば、差出人や賛同者から降りるべきだ

*1文体から執筆者であると予想されている(Qui a écrit le document ? - 怪文書『女性差別的な文化を脱するために』の中の人|Spica|note

*2忘れられる権利と言う新たな論点であり、寡聞にして裁判例を知らないが、平裕介弁護士が指摘している。

*3オープンレター差出人・賛同人から離脱・撤回した人らまとめ - 事実を整える

*4呉座勇一氏と北村紗衣准教授のトラブル」に大きく依拠している。

*5北村氏の自意識が肥大していると言う趣旨の失礼なツイートは中傷になりうると思うが、北村氏も著作を出しインタビューを受ける著名人であるので、根拠となる北村氏の発言があれば批判になるし、1回だけである。

*6記録は残っていなかったが、フェミニスト批判の文脈で言及があってもおかしくない。

*7(現在は消去されている)呉座氏のブログのエントリーによると、これを含めて100を超えるツイートが勤務先に女性差別的と指摘されたようなので、女性蔑視がほとんど無かったと断定はできないところには注意されたい。

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