2020年5月26日火曜日

数学の漸次的な発展過程が分かる『数の大航海―対数の誕生と広がり』

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科学・技術史の文脈で言及されていて、内容を確認しようと思っていた『数の大航海―対数の誕生と広がり』を読了した。著者は、数学30講シリーズで数学徒以外にも馴染みが深い(かも知れない)志賀浩二氏。古代から近世ぐらいまでの数学史を、対数と言う切り口で数学者がまとめたもので、表面的な話に留まらず、数学的な意義に考察が及んでいる。

中高の教科書に出てくる対数は、指数の逆関数とあっさり説明されて終わりなのだが、歴史的には、段階を追って発展してきた。積と商の計算を、和と差の計算に変換することで、計算量を削減する実用的な道具として、三角関数を用いる手法*1に取って代わるように誕生し、無限級数や微積分、複素数といった数学の発達とともに、数学の研究対象になり精緻化された。著者の見解では、対数は、幾何学的な発想に縛られたギリシャ数学、代数的な方法にこだわるアラビア数学と異なる、実用的な数値解析から広がるヨーロッパ数学を代表している。

著者はこの数学の漸次的な発展過程を、スコットランドのネイピア卿が幾何数列を等差数列を結びつけることで作り出したネピア対数の詳細な解説から、ネイピア卿に改良を託されたブリッグスの常用対数の完成を説明し、ケプラー、メンゴリ、ニュートン、メルカトル、ライプニッツ、ベルヌーイ、オイラーの対数に関する仕事(と問題点や間違い)を詳しく説明することで、生き生きと描き出している。大航海時代では、天測航法のために精密な天体歴が必要とされていたような話も章を割いて説明されているし、ネイピア卿の人物像も説明されているので歴史読本的な本のはずなのだが、やはり数学者が書いているだけに数学的にどのように発展していったかの部分が詳しい。

科学の発達とはこういうものだと分かるし、対数があまり好きでない人でも対数に親しみが湧いてくると思うので、理工系でなくてもオススメできる。現代から見ればそう難しい議論は無く、負の対数での議論に出てくる複素平面も大まかな説明が与えられているので、中高の微分積分程度以上の予備知識は要らない。19世紀までε-δ論法は無いので、この時代の人々の議論は大雑把なのだ。

*1なぜか4AB=(A+B)²-(A-B)²は知られていなかったそうだ。

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