2019年7月28日日曜日

ワクチン忌避は集合行為問題ではないよ

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哲学者のジョセフ・ヒースが「ワクチン接種は集合行為問題だ」と言い出して、それを真に受けているような人がいたのだが、この議論においてはヒースさんの勘はよく働いていない。実際のワクチン接種の集団免疫効果はそれに依存できるほど高いものではないし、反ワクチン派の振る舞いは集合行為問題からは説明し難いから、安易に合理的な人々によるフリーライダー問題だと結論を出すべきではない。

ワクチンにも色々とあるのだが、現在公的に推奨されているワクチン(e.g. 麻疹, 風疹)のリスク対効果は極めて高い。過去に薬害騒動が無かったわけではないが、製造方法や運用は改善されてリスクはゼロでなくても、極めて低い。感染症の発生率が低下したとしても、何かの拍子で再び流行る事例は多々あるわけで、ワクチン接種の効果がリスクを下回る可能性も実は低い。和歌山市の幼稚園における麻疹の集団発生では、ワクチン未接種者は349名中1名、接種率は99.8%であり、周囲がワクチン接種をしていたとしても流行は言うほど抑制されないことが分かる。一方で、ワクチン接種者の感染率は2.9%、ワクチン非接種者の感染率は100%、麻疹発症者11名のうちワクチン接種者10名の症状は高熱は出るものの軽く、ワクチン未接種者1名は典型的な麻疹の症状になっていることから、ワクチン接種の効果が裏打ちされている*1

実際のワクチン忌避者の分布も、ワクチン忌避者を合理的なフリーライダーとして説明するのは問題がある。アメリカでは、経済的に安定した白人の家庭の高等教育を受けた既婚の母親の子供が、安全を理由にしたワクチン接種がされない傾向があることが分かっている*2。社会階層ごとに住んでいる地区が変わるので、ワクチン未接種の子供は同じ学校に通いやすいことになる。つまり、(米国ではだが)ワクチン未接種の子供は固まって生活しており、フリーライドしづらい環境をつくっている。ワクチン忌避が集合行為問題であれば周囲のワクチン忌避者が増えれば増えるほどワクチン接種をしたがるわけで、このような特定階層にワクチン忌避者が多くなるようなことはおきない。社会階層に限らず学校のワクチン集団接種で、順番が最初の方の人々は接種する一方で、他の人々が接種するのを見た順番が後ろの方の人々が接種を拒絶すれば、集合行為問題が生じていると言えるであろうが。

公衆衛生の専門家によると、ワクチン忌避者にワクチン接種が重要な事を伝え、その理由を説明した上で、忌避者からの質問を聞いて答えるのがワクチン接種に誘導する効果的な方法だそうなのだが*3、これも集合行為問題で説明することに否定的な情報になる。ワクチン接種のリスク対効果を正しく評価した上でのフリーライドであれば、新たな医療情報によって振る舞いを変えるわけでは無いからだ。

ワクチン接種を勧めるときに集団免疫が強調されるので、それにフリーライドできるのではないかと言う発想が生まれ、ゲーム理論的にフリーライダー問題を考えたくなるわけだが、現実よりも集団免疫の効果を高く評価し過ぎである。

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