2019年7月1日月曜日

「トランスジェンダー女性は女性なのだから、女性として取り扱わないと差別」にどう反論すべきか

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ネット界隈で保守的な人々が、トランスジェンダー女性とそうではないシス女性を区別して取り扱うべきと言う主張をし、どちらも女性なのだから同じように扱うのが筋ではないかと言う反論を受けていた。「トランスジェンダー女性は女性なのだから、女性として取り扱わないと差別」と言うのは、トランスジェンダー女性と言う表現における女性の意味と、単に女性と言ったときの女性の意味が異なるのを無視した詭弁なのだが、なかなか巧妙なのでとっさに反論を行うのは難しい。

保守的な人々の方の論証にも問題はある。トランスジェンダー女性と呼ばれる男性が何なのかについて、はっきりと把握しないままトランスジェンダー女性を男性として取り扱うべきと主張している節がある。トランスジェンダー女性はかなり危うい定義であって、シス女性と同じ社会的な分類に入れるべき実証的な根拠は極めて弱いことが分かり、論に説得力が増すので、一度、整理して考えてみることを勧めたい。

1. トランスジェンダー女性とは何か?

トランスジェンダー女性は、自分の身体的な性別や二次性徴が気に入らなかったりなど性的違和(Gender Dysphoria)を持つトランスジェンダー*1の中で、自分が異性と同じ感覚や振舞いをしていると言う信念を持っている性自認(Gender Identity)が女性である身体的な意味での男性を指す。男性器を除去する手術を受けたり、ホルモン投与を受けたりしている必要はない。この性自認が女性と言うのが厄介で、どのようにその結論に達するのか判然としない。

トランスジェンダー女性は妊娠・出産はできないし、生理や月経前症候群(PMS)に悩まされることはないわけで、身体的には明らかに男性だ。男女の脳の構造に明確な差異が見出されてはおらず*2、トランスジェンダー女性と認定するのに脳の構造は確認されない*3。心の問題と考えても、女性的な思考がどのようなものか知っている男性はいないので、女性的な感覚を持っていると自覚することもできない。

ジェンダーロールに対する選好は、性自認を示さない。ジェンダーロールがはっきりしている社会であれば、身体的な性が負うジェンダーロールではなく異性が負うジェンダーロールを好むということはあり得るが、機会均等が進んだ社会では社会的役割が身体的な性別にそう不合理に縛られているわけでもない。性的指向は関係なく、容姿なども自認する性の身体的な特徴に似せたり、社会的に求められる格好にしなくてもトランスジェンダーになりうる。理屈の上では、外部労働で一家を支える男装で妻のいるトランスジェンダー女性もいることになる。

トランスジェンダー女性は身体的な性別と異なる性別の心を持つと説明されることが多いが、こういうわけでそれを示す根拠はトランスジェンダー女性の心の中にも無い。「この先危険につき、立入禁止」と言う看板を疑って進んで崖から落ちて死にそうなピュロン流の懐疑論者としては、トランスジェンダー女性は存在すら疑わしい。実際、思春期を過ぎたら性自認が身体的な性別に戻ったと言う事例*4も、性転換手術を後悔する事例*5も少なくない。トランスジェンダー男性が出産した事例*6からは、そもそも性的違和すら理解が難しい概念だと言うことが分かる。

身体的な性別と異なる性自認などはできないのだから、概念的定義の意味でトランスジェンダー女性は存在しえない。結局、操作的定義で女性として扱われると性的違和が解消されると申告する男性をトランスジェンダー女性としているだけであり、トランスジェンダー女性は女性として扱われたい男性と言うことになる。

2. 性自認が女性の生物学的男性はどう分類すべきか?

合理的に、トランスジェンダー女性と呼ばれる性自認が女性の生物学的男性を、シス女性と同じ社会的な分類に入れるべきと言うのであれば、(1)トランスジェンダー女性とシス女性が共通して持つ何かの特徴をシス男性が持たず、(2)その特徴に応じて社会が取り扱いを変えるべきと言えるだけの理由がいる。(1)が満たされないとジェンダー(社会的な性別)の区別がつかないし、(2)が満たされないとそのジェンダー分類をする意義が無いことになるからだ*7

身体的にはトランスジェンダー女性とシス女性の共通点で、シス男性に無いものはない。また、ジェンダーロールに対する選好は、トランスジェンダー女性とシス女性の共通点にならない。女性として扱われると違和感がないと言うのが唯一の共通点だが、社会的にどの程度の意義を持つのかは議論の余地がある。性自認が女性である男性を、シス女性と同じように扱ってあげれば彼らの機嫌がよくなるのだから、功利主義的にトランスジェンダー女性を認めるべきと言う議論は可能であるが、シス女性に不利益があれば望ましくなくなる。

男女差が明確なスポーツでトランスジェンダー女性をどう扱うか米国で議論になっており*8、英国でトランスジェンダー女性の囚人が他の女性受刑者に性的暴行を加え、しかも再犯だった事件が問題になったことがある*9が、男女の腕力差が重大な結果をもたらしうる環境では「性自認が女性の生物学的男性は、男性」とした方が合理的である。この立場に立てば、性自認が女性の生物学的男性は、社会的な女性に分類すべきではない。

3. まとめ

「トランスジェンダー女性は女性なのだから、女性として取り扱わないと差別」と言われたら、「トランスジェンダー女性はシス女性と身体的に異なるのだから、シス女性と同様に扱うべきではない無い」「性自認が女性の生物学的男性は、女性に分類すべきではない」と反論すればよい。現在のところ世間や公的機関はトランスジェンダー女性の存在を(部分的ににしろ)女性として認めており、それに逆らう見解を持つことになるので米国流リベラルからの非難は受けるが、問題となっている事例は確かにあるのだから、すべての状況でトランスジェンダー女性をシス女性と同様に扱うわけにはいかない。ただし個別の問題では、それぞれシス女性の利益に照らし合わせて考える必要があるし、だいたいはシス女性の気分を害さなければ無問題で、習慣が変わればシス女性も慣れて気にならなくなると予想される。米国の女子大でトランスジェンダー女性を受け入れるようになってから年月が経っているが、特に大きな問題は生じていないようだ。

*1What Is Gender Dysphoria?

*2男女の脳の違いをsMRIで調べた限ところ違いが無いとされる(WIRED.jp)一方で、fMRIのデータを「パターンの違いを学習したAIに分類させると、約92%の精度で男女を見分けることができる」と言う話はある(ナショナルジオグラフィック日本版サイト)のだが、男女の脳に違いがあったとしても、それが男女の能力や性格に影響しているかは分かっていない(POPSCI)。

*3人工知能がfMRIのデータから男性と女性を高精度で分類できるようになって、その分類から外れる人々のうち希望者をトランスジェンダーとして予測できるようにでもなれば話は変わる。

*4Why Transgender Kids Should Wait to Transition - Pacific Standard性同一性障害は「思い込みで後悔」…家裁、性別再変更の訴え認める - 産経ニュース

*5I Want My Sex Back. Detransitioned transgender people who regretted changing sex - YouTube

*6トランスジェンダー男性が出産 フィンランド初の事例が物議 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

*7伝統的なシス男性とシス女性と言う身体的特徴に基づく区分けは、インターセックスの問題を除けば例外はほとんど生じず、さらに男女の身体的な差異は大きくそれで区分けをすべきときは多い。

*8関連記事:トランスジェンダー女性はスポーツにおいて女性ではない

*9Transgender prisoner sexually assaulted inmates at all-female prison | Daily Mail Online

2 コメント:

メタル さんのコメント...

興味深く拝読しました。
2において、「シス女性に不利益があれば望ましくなる。」の箇所は「望ましくなくなる」の誤植ではないでしょうか?

uncorrelated さんのコメント...

>>メタルさん
御指摘ありがとうございます。訂正しました。

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