2019年3月8日金曜日

ゲーム理論で考えると米朝交渉の行方は割引率、つまり経済制裁の効き具合次第

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ベトナムの米朝会談では何も合意に達せず、手詰まり感が出ている北朝鮮核問題。交渉と言えばゲーム理論と言うことで、しっぺ返し戦略あたりで望ましい均衡が得られる、囚人のジレンマなので合意には至らないと言うような話がちらほらされているのだが、別の構造のゲームで考えてみたい。教科書に載っているモノだが、なぜか世間では有名ではないモノで、これもまた交渉と言うのがある。

1. ルービンシュタインの交渉ゲーム

日本語Wikipediaにページがまだ無いルービンシュタインの交渉ゲーム*1。英語の他にはオランダ語しかないが、そのうち中国語版はできるであろう。それはさておき、条件付き被支配戦略の逐次消去(iterative elimination of conditionally dominated strategies)と呼ばれる均衡の計算方法の典型例で、Fundenberg and Tirole (1991)のpp.128—130に説明が載っている。相互の溝が深くて、合意に達しそうにない状況でも合意に達する話となっている。

合意に達するまでの無限回繰り返される、Player 1の取り分がx、Player 2の取り分が1-xのゼロサム展開形ゲームを考える。xが大きいほどPlayer 1が得に、Player 2が損になる。割引因子はδ1とδ2。Player 1が条件をオファーし、Player 2が受けるかどうか判断し、受けない場合はPlayer 2が条件をオファーし、Player 1が受けるかどうか判断し…と言うのが無限に続く、俗に言うムカデゲーム。

k番目のサブゲームで、Player 1は自身の取り分xがxkより大きければ、Player 2は自身の取り分1-xが1-ykより大きければ即決で合意しようと考えているとしよう。お互い強欲でxk>ykであれば、このサブゲームでは合意には達さない。しかし、交渉が長引くことを嫌っており割引率があるのであれば、k-1番目のサブゲームは、k番目のサブゲームよりも合意条件を引き下げることになる。

Player 1にとってk番目のサブゲームでxkで合意するという事は、k-1番目のゲームでδ1(1-δ2(1-xk))で合意するという事になる。理由は少しややこしい。k-1番目のサブゲームで、Player 1がPlayer 2に1-δ2(1-xk)より大きいxをオファーすると拒絶される。なぜならば、k番目のサブゲームでPlayer 2がPlayer 1にxkより僅かに大きいxをオファーしたときに、Player 2が確定的に得られる利得の割引現在価値より小さくなるからだ。後で自分で出したら拒絶されるほどの有利な条件が提示されれば、合意しない手は無い。なお、単純にxkを割り引いた値よりも大きい。同様に、k番目のサブゲームでykで合意するPlayer 2は、k-1番目のゲームで1-δ2(1-δ1yk)に合意する。

同様にk-2番目のサブゲーム、k-3番目のサブゲーム…と無限に遡って二人の同意条件を計算することができる。うわ、漸化式…と思うかも知れないが、k→-∞で差分がゼロに収束することに注意すると、x-∞ = δ1(1 - δ2) + δ1δ2 x-∞と置いて計算できる。x-∞ = δ1(1 - δ2)/(1 - δ1δ2)。同様に、y-∞ = (1 - δ2)/(1 - δ1δ2)。これが原初のオファーで合意に達するための条件になる。x-∞ < y-∞なので、先手のPlayer 1は(1 - δ2)/(1 - δ1δ2)より僅かに低いxを提案し、両者は合意に達するであろう。なお、最初のオファーで合意に達する。互いの手の内が見えているだけに即決である。

教科書ではkを逐次消去の回数ととってk→∞の収束先を見ていて、ゲームの展開図も描いてはいないので、この説明は問題があるかも知れないが、零点ではないと思う('-' )\(--;)BAKI

さて、結果をまとめよう。想定してきた合意する最低ラインなどは関係なく、ただ単に自分と相手の割引率だけが問題になる。このため、一つのホール・ケーキの2/3をよこせと双方が言い合っているような合意に至りそうにはない状況でも、お互いにお互いの忍耐力が分かっている限りにおいて合意に至ることになる。また、強欲な人と無欲な人が交渉しても、無欲な人の方が忍耐力があれば、無欲な人の取り分が多くなることになる。

2. 米朝交渉を考える

米朝交渉にあてはめれば、北朝鮮が経済制裁でどれぐらい困っているか、トランプ大統領がどれぐらい政治的成果を欲しているかで、北朝鮮への経済的見返りの程度が決定されることになる。

北朝鮮はいかなる犠牲を払っても核・ミサイル兵器を手放す気はまったくない(δ2=1)一方で、米国はインドやパキスタンのときのように何だかんだと折れてしまう(δ1<1)と言うことであれば、北朝鮮が利益を総取りにすることになる。逆に北朝鮮が経済制裁で政権維持が難しくなっている一方で、米国とその同盟国は北朝鮮と他の事案で協力する必要はないので永久に制裁を継続できるというのであれば、北朝鮮は対価がなくても核兵器や弾道ミサイルの廃棄に追い込まれる。

こういう議論は辻褄のあった寓話以上の意味はないし、ゲーム理論には様々なモデルと均衡概念があって異なる結論を得るのは難しくないし、核査察を受け入れるか否かのような離散的な取り引きは上述のモデルは上手く扱えないのだが、政策的含意を与えておこう。米国とその同盟国は北朝鮮制裁を永久に続けられそうな感じであるので、米国の割引因子は1に近い。交渉が合意に達するとして、その条件は対北朝鮮制裁の効き次第と言うことになる。ボルトン米大統領補佐官が対北朝鮮制裁強化を促している*2が、理に適っていると言える。トランプ大統領の融和姿勢はダメな気がするが、こちら側がどこまで譲歩可能か、つまり経済援助可能かを示すこと均衡に影響しない。北朝鮮制裁を緩めてしまう文在寅氏の融和路線はダメである。

ところでハノイで終わりで、無限どころか次の交渉も無いのでは?などとは言わないでください(;´Д`)ハァハァ

*1ゲーム理論のテキスト(e.g. 岡田章『ゲーム理論』)だと提案応答ゲーム、交互提案交渉などの項目で説明がある。

*2ボルトン米大統領補佐官、対北朝鮮制裁強化も=実務協議は見通し立たず:時事ドットコム

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