2019年2月17日日曜日

MMTの財政赤字は金利上昇をもたらさない説の変なところ

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先日、米下院議員になったアレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏がMMTの支持者と言うことで、MMT信者が元気になってきた気がする。先ほどは、資本市場の需要と供給で実質金利が定まる貸付資金説(theory of loanable funds)を主流派経済学の誤謬の一つとして非難していた。MMT教祖の一人*1、Bill Mitchellも同様の主張をしている*2のでMMTの主要な議論の一つだと思うが、視野狭窄な議論になっている。

多くのマクロ経済モデルでは、家計部門の貯蓄、つまり資本市場への資金供給が実質金利に依存するようになっている*3。陰に陽に企業もしくは政府の予算制約に実質金利が入っており、資本市場の資金需要も実質金利に依存するようになっている。多期間モデルだと明確に関係は見出せないが、大雑把に需要と供給が一致するように実質金利が決定されるとは言える。財政が入っていないモデルも多いのだが、財政赤字により国債が発行されると、実質金利が上昇するような構造を内包しているとは言えるだろう。

MMT教祖Mitchellは次のような理由でこの構造を否定している。曰く、中央銀行が政策金利で資金供給をするので、信用力のある民間部門の借り手に対して商業銀行の信用創造に制約は無い*4。むしろ、財政赤字は銀行部門全体の資金余剰を作り出すので、銀行間市場で供給者間の競争を激しくすることで短期金利の引き下げ圧力になり*5、中央銀行は売りオペで金利を引き上げる必要がある。何はともあれ、中央銀行は名目金利を低く抑えることができる。だから、財政赤字でクラウディング・アウトは起きない*6

MMT教祖Mitchellの議論のおかしい所に気付かれたであろうか。銀行間市場の均衡は考えているのだが、それに伴う財の動きを考えていない。生産物はタダでは増えないので、財政赤字によって政府支出を増やす場合、民間部門の投資か消費を減らさないと財が不足することになる。実質金利が一定であれば、家計が消費を減らして貯蓄を増やす必要も、企業が投資を減らす必要も無い。減税で財政赤字を拡大する場合も、家計がそれに見合う貯蓄をしなければ、財が不足することになる。無理に中銀が低金利政策をとれば、需給が均衡するようにインフレが生じることになるであろう。

逆に考えると、実質金利に関わらず財政赤字にあわせて貯蓄を行うリカード家計であったり、未稼働の生産要素が多くあり生産物がタダで増える流動性の罠にあるような状況であれば、MMT教祖Mitchellの銀行間市場だけを考える議論は成立する。それで金利ゼロの永久国債を購入することを条件に、家計それぞれに大量に現金を配っても、金利は変化しない。しかし、一般的にそういう状況であるかと言えば、そうではない。実際、朝鮮戦争の頃のアメリカは、財政赤字にも関わらず低金利を維持したことで、インフレが昂進したと考えられている。MMTの議論でもJGPで失業者を生産活動に従事させればインフレ抑制に寄与すると言うものがあるのだから、この世が桃源郷であることは仮定していないはずだ。

追記(2019/02/18 22:27):「政策金利の上下は総需要に影響を及ぼさない」と言うような前提があるのであれば、中央銀行はインフレ率に関係なく政策金利を定めることができるので、MMT教祖Mitchellが言うような話になるが、どこかでこの前提は明らかにされているのであろうか?

なお、この前提があるのであれば、財政赤字でインフレになっているトルコの中央銀行は政策金利を下げていくべきと言うことになる。

*1教祖Wrayとどちらが主流なのかは良くわからないが、教祖Mitchellの方が扇動的な主張をしている。

*2Modern Monetary Theory – what is new about it? – Part 3 (long) | Bill Mitchell – Modern Monetary Theory

*3例外はある。教科書的なFTPLの議論では線形分離可能な効用関数を前提に置くことで、実質金利が一定に定まる一方、名目金利は政策変数になっているので、資本市場を均衡するように実質金利が上下するわけではない。

*4"credit-worthy private borrowers can usually access credit from the banking system. Banks lend independent of their reserve position so government debt issuance does not impede this liquidity creation"

*5"Fiscal deficits place downward pressure on interest rates"の理由は明瞭に言及されていないが、"When the system is in surplus overall this competition would drive the rate down to the support rate"のthe systemはbanking systemのことで、転じて銀行部門と解釈してよいと思われる。資金循環表で政府部門が赤字であれば、銀行部門は黒字と言うことであろう。

*6教祖Mitchellは"MMT provides new ways of understanding why crowding out cannot occur in a modern (fiat) monetary system"と言っているのだが、IS-LMのポリシーミックスとの違いは無さそうである。

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