2019年1月9日水曜日

近いうち解散と野田総理の退陣は円安をもたらしたのか?

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第二次安倍政権になったおかげで、大規模な量的緩和がなされて景気回復がなされたと言うのは、リフレ派の多くが信じていることだ。しかし、景気一致指数である有効求人倍率の他、景気遅行指数である完全失業率や就業率の回復開始も野田政権期にはじまる*1ので、時系列的に無理がある主張となっている。

雇用指標のトレンド転換点を指摘するだけでは、リフレ派は引き下がらない。民主党政権期の回復は一時的な小康状態に過ぎず*2、自民党になってからが本格的な景気回復と言う、その境界をどうやって識別すればよいのか分からない解釈の他、為替レートが円安に大きく振れたのは、野田総理の退陣がほぼ確定した後なのだから、第二次安倍政権発足*3が期待インフレ率などに作用したと解釈できると言う議論を見かける。

金利平価説円キャリー取引*4を前提に検証してみよう。日米の実質金利の差によって、ドル円が定まると言うものだ。{実質金利}={名目金利}-{期待インフレ率}になる。実際、日米実質金利差とドル/円レートとプロットしてみれば、乖離がある期間もあるが、概ね似た動きをしている。ただし、近いうち解散の後、実質金利差の変化に半年先行して、円安になっている。

リフレ派は政権交代期待から日本の期待インフレ率が動いたと解釈している*5。グラフの実質金利差の計算では、日本の期待インフレ率の代わりに消費者物価指数(CPI)を使っているので、期待インフレ率とCPIに乖離が出れば、為替レートは実質金利差の動きと乖離する。しかし、2013年4月4日の黒田バズーカ後に為替レートは大きく動いておらず、みんなが驚いたマネタリーベースを2年で3倍と同等の金融政策が、黒田バズーカの公表前に予想されて為替が動いていた事になる。さらに、米国の名目金利は半年後の2013年6月以降に上昇しているが、こちらには為替は反応していない。米名目金利上昇と独立した要因による日本の期待インフレ率上昇が理由だとすると、織り込み済みではない米名目金利上昇が市場で無視されたことになる。

日本で期待インフレ率を示す有力な指標が無い*6ので解釈が難しいのだが、近いうち解散の影響はほとんどなく、米金利の上昇を予測したものだとも解釈した方が自然だ。他の期間でも為替が実質金利差に先行して変化することはある。

この解釈には弱点があって、当時の「前日の為替の動き」のような後解説で、金融緩和への期待がある一方、米金利の先高予想は出てこないと指摘されている。しかし、米金利の上昇を予測する材料は二つあった。米長期金利の低下が一服した空気があり*7、軟調だった米株価が持ち直して来ており、ドル投資の期待収益は上昇傾向にあったと考えられる*8

こういうわけで、米国の景気回復を予想してドルが強くなったために円安になっただけであり、野田総理の退陣及び第二次安倍政権発足も、為替に大きな影響は与えているようには思えない。もちろん、真実は当時トレーディングしていた数多の人々の心の中にあるので、口をそろえて米株なんて気にしていませんよと言われたらそれまでなのだが。

ところで、2014年後半からの円安の方が金利平価円キャリー取引で説明しづらいので、リフレ派の皆様はこちらの方を強調した方がよいかも知れない。期待インフレ率が同時に上がっていないように見える*9し、しばらくしたら金利平価円キャリー取引で説明できる水準に戻ってきた気もするが、気にしては…やはり気にしよう(´・ω・`)

*1完全失業率の推移は就業意欲喪失効果が気になって信じられない人も少なくないようなので、就業率の推移を参照してみよう。2011年10月がリーマンショック後の底であり、生産年齢に限ると2010年10月が底になる。

*2関連記事:経済統計でデッド・キャット・バウンスと言われても

*32012年11月16日の近いうち解散で、野田内閣の低い支持率などを背景に、野党第一党の自民党政権になることはほぼ当然とみなされていた。

*4カバーつき金利平価でフォワードレートが購買力平価と言う恣意的な仮定を置いて考えていたのだが、それでは金利平価とはいえないと言う指摘を受けたので、円キャリー取引仮説に変更した。

*5日米のマネタリーベースの比で為替レートが決定されるソロスチャートから円安になったと言う説明をしているリフレ派もまだいると思うが、黒田バズーカの前の現象であるし、日本がマネタリーベースを拡大し続けている一方、米国のマネタリーベースが縮小しているのに、さほど円安に振れないことが問題になる。

*6米国で用いられるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は、インフレ連動債の発行量が十分ではなかったためか、日本相互証券株式会社のBEIの推移のページにあった2013年の値動きが乱れている。2014年以降は再び安定するが、そこから考えると近いうち解散後の期待インフレ率の上昇は0.2%ポイント程度に限られるように思える。

*72012年10月3日に「ドル円下げ渋り 米長期金利の下げ一服」(リアルタイム為替ニュース - ザイFX!)と言う短信を見た記憶があるだけなので、大げさに書いている。もっとも実際にほぼ底だった。

*8ユーロ/ドルを見ると2012年末から2013年前半はドル安なので、ドル側の都合で為替レートが変化したわけではないと見る向きもあるのだが、ユーロ圏の経済状況の変化は日本のそれよりも大きく、米国の経済状況の変化を為替が顕示しない期間も多い。渡辺 (2017)の図表1を借りてきたのだが、ユーロドルは2013年後半から実質金利差のトレンドを乖離している。

*9信頼のおけない日本のBEIの示すところなので、これまた何とも言えない数字なのだが。

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