2016年7月30日土曜日

高橋洋一が示した完全失業率2.7%はグラフの読み違いだった

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元官僚の高橋洋一氏は、だいぶ前から完全雇用失業率が2.7%程度と主張している。根拠となる分析手法が謎だと思っていたのだが、だいぶ前に『日銀の「失業率の下限」に対する見方は正しいか』と言うエッセイでその根拠を示していて、昨日、氏がそれを参照していて気づいた。しかし、これは計量分析になっていないし、そもそも氏が示しているグラフと氏の主張が合致していない。空目しているようだ。

図表3を引用するが、図中に書き込まれた完全雇用水準を見て欲しい。失業率3%台のところに完全雇用として矢印が引かれている。

この図に関する高橋氏の説明は以下である。

最近の2009年8月から現時点までの経路(図表3赤線)を見ると、筆者の予想線(図表3点線)の通りに右下に向かって下がっている。ここで、右回りになるとすると、さらに左下に下がり、完全雇用は図のようになると、筆者はみている。その点に対応する失業率は2.7%程度であり、これが筆者の考える構造失業率である。

5月に出された記事だが、今まで誰も気づかなかったのに驚く。

追記(2017/04/01 07:01):縦軸は雇用失業率(=完全失業者数/(完全失業者数+雇用者数))で完全失業率ではないと言うツッコミを受けた。高橋氏は本文で説明していなかったが、定義上、雇用失業率は完全失業率よりも高くでるので、図中の雇用失業率3%超に対応する完全失業率が2.7%だと言うことのようだ。

どの程度補正しているのか気になって、2000年1月から2016年12月までの雇用失業率と完全失業率の差を調べてみた所、2000年代初頭に最大で1.0ポイントあった差が、記事が書かれた2016年前半は0.4ポイントになり、直近の2016年には0.3ポイントに縮まっていた。グラフ中で完全雇用になる雇用失業率を明記されていないので、精確には分からないが0.5ポイントぐらいの差を見込んでいるのであろうか。

空目以外にも理解し難い所がある。原点から右上に伸びていく直線は理解できるのだが、半楕円状のUV曲線にほとんど根拠が示されていない。

氏はUV分析による構造失業率推定をしている*1。これは失業率の変動が起きない状態を示すUV曲線上で、有効求人倍率(以下の図ではθ)が1になるところを構造失業率と見なす方法だ*2

高橋氏が半楕円状にしているのは、UV曲線が移動することが知られているからだそうだ。しかし、高橋氏が主張するようにUV曲線が動く要因が示されていない*3。だから、計量分析になっていない。

2002年から2009年まで右回りで一周してUV曲線が下方にシフトしたと主張しているが、過去一回しかない現象が繰り返される理由は無いように思える。高橋氏も、それ以前は上方シフトしてきた事を指摘している。何が違いを生むと言うのであろうか。

高橋洋一氏が示した図を常識的に分析すれば、赤線と原点から右上に伸びていく直線の交点が構造失業率となり、それは3.5%から4.0%の間となる。氏の分析は、氏の主張を否定している。一般読者はこういう事に気づかないと舐めていたりしないであろうか。

*1関連記事:UV分析を知っているフリをするための知識

*2単純な想定で1となっている事には注意されたい。サーチ理論に基づくと1が定常状態を示すとは限らない。

*3移動するUV曲線をどう引くかが問題なわけだが、内閣府は離職率と非常用雇用比率を加えた推定を行った上で、毎期の構造失業率を推定している(今週の指標 No.1032 - 内閣府)。つまり、離職率と非常用雇用比率の変化がUV曲線を移動させると仮定してる。

2 コメント:

toro さんのコメント...

"その点に対応する失業率は2.7%程度"とあったので、気になって追いかけてみましたが、縦軸の雇用失業率よりも完全雇用失業率は小さくなるようですよ。計算までは追えませんが、とりあえず完全雇用失業率はグラフで見たままの数字ではないようです。

uncorrelated さんのコメント...

>> toro さん
御指摘ありがとうございます。追記しておきました。

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