2014年1月26日日曜日

ルーカス・モデルを直感的に理解するための算数

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自然発生的なインフレは実態経済に影響にするものの、政策的なインフレは実態経済に影響を与えないことを説明したLucas Islands Modelは有名なのだが、そこで行われている「合理的期待形成」が何か誤解されている気がして来た。しかし原論文の計算は込み入っているし、厳密には証明が正しくなく後日訂正された部分もあり、気軽に紹介したい感じではない。そこで直観的な算数を考えてみた。

1. 合理的期待形成を直感的に理解するための算数

ルーカス・モデルでは、xとθの二つの確率変数が出てくる。xが通貨量増加率、θが実物ショックだ。そして物価がx/θの単調増加関数m・φ(x/θ)、m:通貨量となっている。

人々は効用を最大化するために、xに動じず、θにあわせて生産・消費・貯蓄のバランスを取ろうとする*1が、xとθは観察できない。しかし、物価は観察できる。物価が分かると逆関数φ-1より、x/θが分かる*2

ψ=x/θと置こう。確率変数の商は確率変数となる。ψ、x、θの確率密度関数を、それぞれh(ψ)、f(x)、g(θ)と置く。θ=x/ψに注意して、確率密度関数の関係を整理すると以下になる*3

この式から条件付確率密度関数g(θ|ψ)が計算できる。ルーカス・モデル内で行われている「合理的期待形成」は、大雑把にこういう計算。

2. 通貨量の増加率を増やしたらどうなるか?

通貨量の増加率をk倍することを考えよう。ψk=kx/θ、確率密度関数の形状も変化するため、hk(ψ)、fk(kx)、gk(θ)と書き直すと、以下のようになる。

確率変数の変換を行い、右辺をkψ、h(ψ)、f(x)で書き直してみる。

置換積分を思い出すと、右辺のkは全て消すことができる。結局、

となる。kψとψは1対1に対応する観測値であることに注意すると、g(θ|ψ)とgk(θ|kψ)も同一の式になるわけで、通貨量増加率をk倍しても人々の合理的期待であるθの条件付確率分布は同一となる。

θは確率的にしか分からないから誤差としての貨幣錯覚は存在する(短期のフィリップス曲線)が、人工的に貨幣錯覚を増加させることはできない(垂直なフィリップス曲線)。ざっと計算したので粗はあるかも知れないが、大雑把にはこういう議論。

*1世代重複モデルを使って、実物ショックによる物価高は労働時間を増やして増産したほうが生涯効用が増すが、貨幣量の増加による物価高の場合は増産しない方が良い世界を描写している(Lucas (1972))。

*2初出ではφの単調性を仮定していなかったため、実は逆写像定理が使えず複数均衡の可能性があったが、後に訂正された(Lucas (1983))。

*3計算方法は「確率変数の和,積,商,べき乗の分布(The PDF of X+Y, XY, X/Y, X^Y)」を参照。

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