タックスヘイブンの会社の設立などを手がける中米パナマの法律事務所から流出した内部文書、通称、パナマ文章が話題になっていた*1が、租税回避地に関しては昔から問題になって来た。以前、これに関した本「タックスヘイブンの闇」を紹介した*2が、去年、「失われた国家の富」と言う新しい本が出ていたので拝読してみた。対外債務と対外資産の差からタックスヘイブンに隠された資産が大量にあり、その分、政府は税収を失っていると考えられるので、日米欧は金融や貿易などで圧力をかけて守秘法域で無くそうと言う話が書いてあった。EU域内で制裁ができないルクセンブルクには、EUから追い出して制裁しろと書いてある。
今でも租税回避地を使った課税逃れの対策は進んできているが、効果的とは言えないようだ。外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)を含む租税情報交換は機能しておらず、しかもEU貯蓄課税指令はルクセンブルクとオーストリアに情報公開の代わりに源泉徴収をする事を認めたため、タックスヘイブンの利用を後押ししてしまった。結局、課税逃れを防ぐには、世界規模の金融資産台帳を作る必要がある。タックスヘイブンの国々は協力したがらないであろうが、送金に課税を行う金融制裁や、高関税をかける貿易制裁で脅していく必要があるそうだ。
個人がタックスヘイブンを使って脱税をする方法がP.19--21、大企業の方法がP.140--143に書いてあるのだが、大企業の株主にとって大きな利益になるのかが良く分からない。子会社に隠れて利益を移したとして、それを配当しようとすると表に出て課税されてしまう。厳密には法人税として払うはずだった金額も再投資に回せるので利益は増えるわけだが、タックスヘイブンの子会社に邸宅など資産を買わせられる個人ほどは節税できない上に、経営者の行動を監視できなくなるためモラルハザードで利益を損なう可能性がある。また、銀行など金融機関も融資先の帳簿に記載された子会社の素性が分からないのは嫌であろうから、守秘法域を利用する事は抑制するであろう。問題は富豪であって、大企業は程度が軽い気がしてならない*3。
本筋からは外れた重要ではない部分でも、もう少し説明して欲しい所が幾つかある。累進性のないフラットタックスについて「経済的観点からみて100万ユーロと数百ユーロの収入に、同じ税率を適用する理由などない」(P.98)とあるが、それは経済学的にどういう理屈がつけられているのか。「移転価格操作により、付加価値の分配は大きく歪む」(P.143)とあるが、どういうメカニズムで労働-資本分配率が変わると言うのであろうか。法人税率が低いからと言って、課税前の資本分配が大きくなる理屈が思いつかない。これらにも何か理屈はあるのであろうが、本書では説明されていなかったので読んでいて気になった。説明はされているのだが、全世界的な金融資産台帳をIMFに作れと言っているのが、妥当な主張とは思えなかった*4。「プエルトリコでは・・・現地民にはアメリカの市民権はない」(P.125)は事実誤認。フランス人だからと言って許されると言うわけではないであろう。
学術書と言うよりは、フランス人視点で書かれた政治的喧伝行為な気がする一冊だが、分量は少ないし、主張もすっきりしているので読みやすいと思う。一橋大学の渡辺智之氏の解説付きで、そこまで読むとバランスも良い。
*2関連記事:守秘法域の租税回避地が引き起こすこと
*3株主が経営者行動を監視できていない可能性はある。
*4民間金融機関と取引の無いIMF(実はある?)が適任とは思えない。新たに公的な国際証券集中保管機関を作ってそれを使う事を強制しつつ、そこに金融資産台帳を作らせるのが適当に思える。
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