2020年8月19日水曜日

日韓歴史認識論争の参加者必読の書『反日種族主義』

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

昨年、韓国で出版され、迅速に邦訳された『反日種族主義』を拝読したので紹介したい。

本書は、韓国の経済史家らが日韓の歴史認識論争について、史料をもとに韓国側の誤解を解きつつそのような誤解を発生させた社会風潮を非難する本。概ね、日本政府の公式見解と合致しているが、近年発見された史料をもとにしている部分もあるし、前近代の朝鮮社会についての説明もあって勉強になる。

歴史家が書いているだけに内容は手堅い。歴史家の吉見義明氏の主張、厳密にはちょっと違うのではないかなと思ったり、前半の例えで出てくる「白人の奴隷ハンター」はほとんどいなかったのではないかなと思うのだが*1、他は概ね簡潔だが論拠をもって主張が展開される。

日本のネット界隈ではよく知られた話が占める割合が大きく*2、日本でよく言及されている資料によく目を通している人には退屈に感じられるかも知れないが、前近代の朝鮮半島についての説明はなかなか新鮮。ネット界隈の左派の皆様は公権力による兵士に対する性的サービスの提供は日本軍慰安婦が世界初のようなことを主張するのだが、朝鮮半島では1435年に世宗が妓生/妓女を全国に配置し、軍士に性的サービスを提供させたそうで(pp.235–236)、日本は朝鮮の後塵を拝している。

李氏朝鮮には奴隷身分の女性が多くいた一方、商業が発達していなかったので店舗買春は広く普及しておらず、性的サービスを提供する妓生は日本が持ち込んだ公娼制度に朝鮮の社会文化が融合したもので、日本軍慰安所はその公娼制度エコシステムの一部であったことが、1912年にできた日本人経営の徳川楼と言う遊郭が、1937年に日本軍専用の慰安所に指定された(p.259)ような、当時の遊郭と慰安所にほとんど差異がない事を示す具体的な事例とともに説明される。

白頭山や竹島が韓国人にとって重要な象徴になった経緯も説明されているし、韓国の「反日」の発展史も記されている。韓国の「反日」を語るのであれば、本書の見解は無視できない。世相批判、政権批判は学術的な啓蒙書と考えても余分であったのではないかと思うが、韓国知識人の中にも社会風潮を危惧している人々がいることが分かると言う意味で、これも一つの情報になる。日韓問題で言い争いを続けるネトウヨやネット左派の皆様に勧めたい。

*1アフリカ人がアフリカ人奴隷を欧州人に売却している。スペイン人が奴隷狩りにアフリカに行った事例もあるのだが、アフリカ人は内陸に逃げてほとんど捕まらなかったそうだ。

*2前借金契約なので年季明けで自由になれ、実際に史料や証言から裏付けられていること、性病罹患率を見ると、朝鮮戦争後の26%より日本軍慰安所の5%とマシだったこと(p.286)、兵士150人あたり1人と言う充足率とそれと合致したコンドームの供給量から慰安婦の最大人数は1万8000人だと推計し、民族別構成の朝鮮人比率20%から、朝鮮人慰安婦数は3600人だったとしている(p.268)こと、慰安婦証言に一貫性がなく変化しており、証言集でも後に収録された慰安婦の証言が挺対協(現在の正義連)に迎合したものとなっている事などが綴られる。ネトウヨ主張に感じられるかも知れないが、韓国人歴史学者の弁である。

0 コメント:

コメントを投稿