2019年7月8日月曜日

元財務官僚・高橋洋一の教科書にある中心極限定理の説明について

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東京大学理学数学科卒で、常日頃、文系の経済学者は数学や統計が分からないと罵ってまわっている元財務官僚・高橋洋一氏の著書『図解 統計学超入門』の中心極限定理の説明「相互に独立な確率変数X1、X2、X3、…、Xnがあるとき、これがどのような確率分布であっても、nが大きくなればなるほど、正規分布に近づいていく」がデタラメだと話題になっている。確かに、初学者向けの説明としても、2点、看過できない誤りがある。

まず、古典的な中心極限定理*1は、分布に期待値と分散ががあることが前提で、コーシー分布など当てはまらない分布もあることから、「どのような確率分布であっても」と言うのは誤りであり、次に、「正規分布に近づいていく」のは確率変数Xの平均値の分布であって、確率変数Xが従う分布ではないから、「確率変数Xの平均値が」と言う補足を加えないといけない。

他の本でも誤った言及を見かけたことがあり頻出の間違いであり、定理の前提と主張を注意深く読もうと言うだけの話ではあるが、教科書を書く人には念を入れて中心極限定理の証明を確認して欲しかった。東京大学の数学科をでていて、19世紀までの数学で示せる範囲*2のことが理解できないわけないんだから、もう少し慎重に作文して欲しい。以前から確率・統計に関しての高橋洋一氏は、時系列データの相関係数が高いことを自説の根拠にしたり*3、ベイジアンな相関係数は確率と言い出したり*4と悪ノリがひどい。

*1レビィ=リンドバーグ中心極限定理と呼ばれる。他にも母集団分布の同一性の仮定を緩めたリャプノフ中心極限定理、確率変数列の独立性を緩めたマルチンゲール中心極限定理、分散が非有限の場合にも拡張された一般化中心極限定理が知られている。前2つは確率論の専門家でないと縁が無いのではないかと思ったが、「高校数学における平均と中心極限定理について」で紹介されていた。なお、仮定が緩んだかわりに、別の仮定が追加されているものもあるので、言及する前にはやはり証明を確認されたし(;´Д`)ハァハァ

*2ルベーグ積分と特性関数を使った証明(『ルベーグ積分から確率論』5.6節)が一般的な気がするが、モーメント母関数を使っても示せる。なお、東京大学出版の『統計学入門 (基礎統計学)』ではモーメント母関数の一意性の証明は省略されているのだが、ラプラス変換の一意性の証明は当たり前にしている人々が読んでいるのか、文句は出ないようだ。

*3関連記事:時系列データの相関係数はあてにならない

*4関連記事:ベイジアンな相関係数は確率! by 高橋洋一

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