2018年6月20日水曜日

ウェブ広告と仮想通貨の無断マイニングの違い

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ビットコインのような仮想通貨は送金者と受取人の間の取引履歴を記録するために、第三者による特殊な演算が必要になるので、演算を行なった第三者に報酬を与える仕組みになっている。この報酬を狙って日夜計算を行なうことをマイニングと言うのだが、近年、他人の計算機資源を無断で使ってマイニングを行なう輩が発生している*1。ウェブページに仕掛けて、閲覧者が気づかないようにマイニングを行なわせるCoinhiveはそのための典型的なツールだ。

1. 無断マイニングは違法と言えるのか?

高知県に移住した有名ブロガーがブログに仕掛けて炎上するなど社会問題になっていたのだが、神奈川県警がこのCoinhive設置者の一斉摘発に踏み切ったため*2、法の濫用と言う声が上げられている。電気代や通信回線などを秘密裏に使わせるため、信義誠実の原則に反すると言うのは合意があると思うのだが、実刑が下るほどの違法行為とまでは言えないという意見も強い。

2. ウェブ広告と無断マイニングは同じ論

セキュリティー研究者の高木浩光氏はやや長めの論説*3の中で、ウェブ広告と比較して仮想通貨の無断マイニングについて検討し、ウェブ広告においてはウェブ閲覧者の計算機資源を使った収益化が許容されており、アクセスするまでそうだと分からない広告が重いサイトも、閲覧者の意図しない動作をしているとは見なされなかった事から、仮想通貨のマイニングも許容されるべきだと主張している。利益を得ることは「正当な理由」であり、計算機資源を奪取は「意図に反する動作」とは言えないとする立場だ。説得力のある論考だとは思うが、見落としている点がある。

3. ウェブ広告は閲覧者に隠すことができない

ウェブ広告は閲覧者の注意を引くのが目的であり、計算機資源をより多く利用することは目的としていない。最近はサブリミナル効果は否定されているわけで、秘密裏に広告を実行することは原理的に不可能である。広告は目に見える*4。閲覧者が知らないうちに計算機資源を供与し続けることはない。動画や過剰な広告が気に入らなければ、閲覧をやめる事ができる。仮想通貨の無断マイニングの場合、ページ閲覧者は気づかないままの事も多いであろう*5。また、同じ広告効果であれば、利用する計算機資源を節約しても、開発の手間暇を除けば設置者の不利益にならない。仮想通貨のマイニングは計算機資源の利用量に比例して収益が拡大する。

4. 司法判断がどう下されるか分からない

参考になる判例も無さそうだし、裁判官がこの点をもってウェブ広告と仮想通貨の無断マイニングに違いがあると認定するかは分からない。しかし、閲覧者は「意図に反する動作」をしている事自体を認識できなければ対抗措置をとることもできないわけで、可能性はある。高木浩光氏も『何をもって「不正な」とするべきなのかは、はっきりしない』としている。過去の盗電事件を振り返れば被害程度に関わらず罪は成立する*6ので、実害が小さいこともCoinhiveが適法と主張するには十分では無いであろう。他に先に取り締まるべきものは数多くある気はするのだが*7、白黒はっきりしない所はある。

*1止まらない「クリプトジャッキング」──暗号通貨の採掘がもたらす「狂騒曲」の行く末|WIRED.jp

*2他人のPC「借用」仮想通貨計算 ウイルスか合法技術か : 科学 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

*3高木浩光@自宅の日記 - 懸念されていた濫用がついに始まった刑法19章の2「不正指令電磁的記録に関する罪」

*4ステルス・マーケティングが問題になっているが、執筆者の性質はともかく、文章は目には見えている。

*5OSやアプリケーションもユーザーが気づかないようにバックエンドで動いているわけだが、こちらはユーザーに供する機能に必要になる動作であり、正当な理由と見なす事ができる。

*6痛いニュース(ノ∀`) : 駅コンセントで携帯充電の女子大生摘発 「3銭分でも盗みは盗みです」…JR相模原駅 - ライブドアブログ

*7「あなたのPCはウイルスに感染しています。今すぐダウンロード」と言って、マルウェアをダウンロードさせインストールさせようとしているページを見かけたことがあるのだが、こちらの方が問題である。

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