2014年2月15日土曜日

マイクロファイナンスで借金苦には陥らない

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ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が始めた貧困層向け小口融資であるマイクロファイナンスは、広く貧困層の生活改善に役立つと信じられている一方で、先進国と比較してとても高い金利を課す場合もあることから、むしろ借金苦から生活悪化につな がるのではないかと言う懸念を抱く人々もいる。そういう疑問に答えるべく、本当に生活改善につながるのか、借金苦には陥らないのかを検証した論文を西田一平氏が紹介していた(Living in Peace)。内容を大雑把に紹介したい。

西田氏が紹介しているAngelucci, Karlan and Zinman (2013)は、メキシコ最大のマイクロファイナンス機関(MFI)であるCompartamos銀行の協力で行われた調査をまとめたものだ。この種の政策効果を測定するにあたり、もっとも信頼性が高いと言われているランダム化比較実験(RCT)の亜種を用いている。

通常、金融機関が融資を行う場合、融資申込者の生活能力を調べて、その中で返済確率が高い人にのみ融資を行う。しかし、その後の追跡調査で、融資した人々と、融資しなかった人々を比較して前者の生活が改善していた場合、生活能力の違いなのか、融資の影響なのか判別することができない。同時性として知られる問題だ。

紹介されている論文では、この同時性の問題を回避するために、RCTと呼ばれる巧妙なテクニックの亜種を用いている。具体的な実験の概要は以下になる。

  1. ベースライン調査:潜在顧客となる、融資条件を満たした女性の事業主・事業開始意欲のある人々を16,560人選び、初期データを取った。
  2. Compartamos銀行が今まで進出していなかったソノラ州を238の地域に分割し、ランダムに融資を行うトリートメント(介入有り)地域と、コントロール(介入無し)地域に分ける。トリートメント地域には訪問勧誘を積極的行い、コントロール地域には何も行わない。こうして融資を受けた人々をトリートメント・グループ、受けなかった人々をコントロール・グループとする。
  3. フォローアップ調査:2~3年後に対象家庭のデータを再度取り、生活の変化をみた。

法的制約があるせいか込み入った手法をとっているのだが、これで融資条件を満たした女性を間接的にランダムにトリートメントとコントロールに分けてその差を観察し、マイクロファイナンスへのアクセスの有無が与える影響を特定した。

調査結果は、マイクロファイナンスには生活を改善する効果が見られる一方で、悪化させる効果はほとんど見られないと言うものだった。

マイクロファイナンスへのアクセスは、事業規模の拡大、家計の管理能力、幸福度、人への信頼度、金銭的意思決定における発言権など主に定性的な面で、ポジティブな効果が統計的に有意に存在すると観察された。ただし、2週間の収入が121ドル(27%)、支出が118ドル(36%)増加となっており、事業規模が大きく拡大した一方で、収入と支出の差、つまり利益はほとんど変化がない。家計の管理能力、幸福度、人への信頼度、金銭的意思決定における発言権などの定性的な面での向上がみられたのは、企業規模の拡大効果による、社会的責任感の向上が理由だと説明されている。更に、この調査で注目していた全17指標において、トリートメントはコントロールと比較した際に統計的に有意なマイナスの影響は観察されていない。マイクロファイナンスを上手く使える人が限られていることから格差が悪化する効果なども、大きな影響は観察されなかった。

ここからは私の見解だが、途上国では金利が高いし、そもそも融資基準を満たすぐらい良識がある人ならば首が絞まるぐらいならお金を借りないであろうから、この結果に驚きは無い。また、他の研究では消費支出が増加することが多いのだが、業務に使うと言って家庭で使うモノも買っていたりすれば調査結果に出てこない*1から、収益につながっていないのも意外性は無い。マイクロファイナンスは、きっと貧困層に役に立っている。

*1事業拡大して仕事の量が増えていて、利益が変わらないのは考えづらい。

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