2021年8月18日水曜日

タリバン統治になって、大多数のアフガニスタン女性の境遇が良くなる可能性もある

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伝統的なムスリム社会の道徳観を持つとされるターリバーンがアフガニスタンを制圧し、多国籍軍がつくった政府が崩壊したため、アフガニスタン女性の今後の境遇が心配されている。しかし、建前ではなく大多数の女性にとっての実質で見たとき、ターリバーンの女性政策は今よりマシかも知れない。

2001年にターリバーンは、アメリカ同時多発テロ事件を引き起こしたアルカイーダを匿ったために米国を中心とする多国籍軍に攻撃され、アフガニスタンの支配地域のほとんどを一時、失った。その後、多国籍軍の支援で新政府ができて今月まで統治して来たが 、大多数の女性にとって実質的な境遇改善にはなっていない*1

原因としては、内戦や旱魃で経済的苦境が続いていたこと、女性抑圧的な慣習が女性のリスク回避策として機能していたこと、ターリバーン以外の軍閥も保守的なムスリムであることなど複合的な要因だと指摘されているが、内戦はひとまずこれで終結すると見込まれている。ターリバーンの人々の気持ちが変化すれば、状況は改善する。

ムスリムは一人一派的なところがある宗教で、保守的イスラム教徒だからといって完全に女性抑圧的だとは限らない。シーア派の原理主義と知られるイランは、中東では女性の就学や賃金労働参加に柔軟だ。サウジアラビアと比較するとかなりマシ。イランの真っ黒なチャドルでサングラスをした女性警察官は、そういう女性の姿を見慣れないのでかなり怖いのだが、警察官として働いているのは間違いない。

ターリバーンが欧米流の人権意識を持つことは、あるとしても今世紀中は無さそうだが、イランとの関係が強いという噂もあるので、1990年代よりは女性の権利に配慮する可能性がある。年月が経って指導者層が入れ替わって考え方の変化はあるだろうし、ターリバーンが今後の経済政策を考えているのであれば、欧米から開発援助などを受けやすくするはずだ*2。実際に、女性スタッフを用いた会見で、ブルカではなくてヒジャブ*3を義務にすると言い出した*4

権力基盤が強く保守層の支持が厚いと考えられるターリバーンは、(過去20年間のアフガニスタン政府よりも)高い政策実行能力を持つので、彼らが緩やかでも伝統社会よりは女性の権利を認める方向へ方針転換をすれば、実効ベースでアフガニスタン女性の境遇を改善するはずだ。大卒女性の多くは学歴に見合った職につけなくなるかもだが、3人に2人の女児が学校に通えないのがアフガニスタン*5。女児に読み書き算数を教えることに取り組んでくれれば、全体としては相殺して有り余る貢献になる。

なお、口先だけでこれまで以上に女性を抑圧する可能性もあるから、何年かは結論が出ないので注意しよう。

*1清末 (2014)「「対テロ」戦争と女性の均質化――アフガニスタンにみる〈女性解放〉という陥穽」ジェンダーと法,Vol.11,pp.80–92

*2中国やロシアと近いという話もあるが、ロシアとは歴史的な軋轢があるし、中国はワハーン回廊に進出してきているし、両国とも国内のムスリムを弾圧しているので、他の国とも外交関係をもっておきたいはずだ。

*3関連記事:イスラム女性の服装の種類

*4タリバン、女性へのブルカ強制を否定 ヒジャブは必要に 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

*5アフガニスタン:子どもの半数、370万人学校に通えず ユニセフ、報告書発表

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