2014年7月21日月曜日

したたかさの分からない「したたかな韓国」

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嫌韓本に批判的な韓国政治が専門の浅羽祐樹氏の「したたかな韓国―朴槿恵(パク・クネ)時代の戦略を探る」を拝読してみた。韓国を単に理不尽と思うだけではなくて、その政治事情を理解しましょうと言う本だと思うのだが、一貫した分析のフレームワークが提供されていないので、どう捉えてよいのか分からない情報の羅列になっている。朴槿恵時代の戦略とあるのだが、何の戦略かさえ分からない。

分析のフレームワークらしきものは示唆される。P.12~の記述からは日韓で<ゲーム>を戦っているとしている。対戦相手の特徴を知りましょうと言うのは分かるのだが、日韓で取りうる戦略、そしてその組み合わせによる利得が示されていないので、どういう構造のゲームになっているのかが良く分からない。むしろ、韓国側の姿勢は強固で変わらないように記述されていて、日本から見るとゲームと言うより災害対策に思える。

1. 日韓関係につながらない韓国政治事情の説明

第一章と第二章では韓国の政治事情が記述される。ここで人口動態が大きく選挙に影響し、さらに政策課題になっている事が記述されている。また、大統領予備選で負けた朴槿恵氏が同じ与党ハンナラ党のの李明博政権の政策実行能力を削いでいったことや、ハンナラ党からセヌリ党に改名し政策をかえて支持率を高めたことなどは興味深い。しかし、日韓関係にどうつながるのかが良く分からない。「日韓は政策競争をして先進モデルを示せ」とあるのだが、他にも少子高齢化国はあるし、そもそも競争するものでは無いであろう。むしろ、選挙で外交問題は争点にならなかった所が気になる。

2. 選挙結果が日韓外交に影響しないのにポートフォリオ?

浅羽氏は朴槿恵氏が与党でも非主流派から大統領になった経緯から、「朴時代の韓国へのアプローチ(P.60)」で、ポートフォリオを例えに特定政治グループに偏らない多面的外交を主張している。しかし、トップが変化しても韓国側の対日姿勢が変わらない。第四章で国民情緒法や司法積極主義から来る大統領の選択肢の無さが指摘されているわけで、誰に何を投資しても、韓国側の姿勢が変わることは無いように思える。外交問題は選挙の争点にさえならないわけだ。なお、様々な政治勢力に何を投資して何を得るのかが書かれていないし、さらに比率について言及されていないので、著者の提言は捉えどころが無い。

3. 韓国が前言撤回してICJに出てくる可能性はあるのか?

第三章では、竹島の領有権問題について議論される。韓国の公式の見解を説明しつつ、「独島インザハーグ」と言う国際法廷小説を書いた判事が外交部独島諮問官に任命されたことから、裏では「悪魔の代理人」を立てて論理武装の強化を行っており、“したたか”な面を発揮しているそうだ。主張の弱点をあぶり出し、そこを補強しようと言うのは戦術的に“したたか”なのだが、そもそも韓国は国際司法裁判所(ICJ)に解決すべき領土紛争は無いと言う立場で出てこない。前言を撤回して外交的にICJに出てこざるを得なくなる状況が理解できないのだが、浅羽氏がどのようなケースを想定しているのかが分からなかった。

4. 慰安婦問題でも取りうる戦略とその帰結は考察されない

第四章では、慰安婦問題が取り上げられている。国民情緒法や司法積極主義など韓国側の言動の理由が説明されている。韓国政府は憲法裁判所に追い立てられており、一切譲歩不可能としか理解できない。また、国際的に慰安婦問題が女性の人権侵害だと認知されている一方で、日本の現行方針である河野談話やアジア女性基金は評価されているそうだ。韓国側がアジア女性基金と言う解決策を拒絶している説明がない所と、現在までの日本の外交政策を何ら批評していないのが気になった。また戦争における女性の人権侵害の話にしたときに、韓国は無傷で要られるのであろうか。日韓で<ゲーム>を戦っているとすれば、少なくとも現行の<戦略>の帰結が何であるかは議論すべきでは無いであろうか。

5. 分析方法に沿って「したたか」を定義して欲しい

著者の浅羽が整理できていないと思うのだが、外交における「したたか」とは何であろうか。軍事的リスクを抱える韓国が、戦時下で協力を求めるはずの隣国に対する挑発行為は、「したたか」なのであろうか。日韓でゲームをしているとすれば、とった戦略が最適になっていれば「したたか」であろう。そして最適性は利得によって定義されるはずだ。しかし、P.12~の記述からは日韓で<ゲーム>を戦っているとしているのに、日韓双方の戦略でどのような利得が予想され、それがどのような最適戦略を演繹するかを議論していない。浅羽氏は韓国外交に何らかの合理性があると主張したいのだと思うのだが、全般的に失敗しているように思える。

A. 重箱の隅

以下はマイナーだが気になったところ。

  1. 「日本は一九九〇年に人口ボーナスから人口オーナスへ転換」は誤りではないであろうか。「日本の将来推計人口」に「生産年齢人口(15~64歳)は戦後一貫して増加を続け、平成7(1995)年の国勢調査では8,726万人に達したが、その後減少局面」とある。
  2. P.102の社会保障制度の整備の遅れについては、日本の事例から状況を想像するのが難しいので、もう少し記述が欲しい。ただし本全体からすると、この部分の重要性は低い。
  3. 実効支配の説明は「平穏かつ継続的に公権力が行使されていること」(P.116)とあるのだが、実効支配にならない事例がある一方で、実効支配になる事例がない。それも挙げて欲しい。
  4. 韓国は「悪魔の代理人」を立てて韓国の主張の脆弱性を吟味しているというものの、日本の外務省がそれをしていないと言う前提に立っている気がするので、その理由を知りたい。P.120で紹介されるチョン・ジェミン氏の指摘からは、日本側の論拠は十分あるように思える。
  5. ここ20年間で韓国の貿易依存率が急速に高まったこと、中韓の投資や貿易が急激に伸びたこと、左翼やニューライトといった政治勢力への言及も必要であろう。

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