2011年11月30日水曜日

経済学を学習すると疑心暗鬼に陥る

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大東文化大学の郡司大志氏の「やさしい経済学論文を紹介しやがれ」と言う呼びかけに応じて、多くの論文が紹介された(やさしい経済学論文)。その中で、北海道大学の大野由夏氏が紹介していた論文を拝読したので、紹介したい。

1. 初歩的な知識で読める論文

Frank, Gilovich and Regan(1993)は、経済学の教育がプレイヤーの戦略に与える影響を分析している論文だ。今風で言えば実験経済学になり、理学系心理学に近いアプローチをとっている。初歩的なゲーム理論の知識と重回帰分析(OLS)の知識さえあれば読める。

2. 問題意識と結論はシンプル

ゲーム理論のナッシュ非協力ゲームの囚人のジレンマは、有名な問題だ。もしプレイヤー同士が協力し合えば多くの利得を得る事ができたとしても、他者が裏切ると予想することで協力し合うことができない。筆者らは、経済学を学習することで、この囚人のジレンマを引き起こしやすくなる事を指摘している。人間の行動選択で、所属する社会の影響がありえると言う事だ。

3. 論文の構成

論文は三つの部分で構成されている。まず、先行研究二本を紹介し、一般的なワンショット・ゲームにおける経済学徒(Economists)の自己中心的な態度を紹介している。次に、筆者らのワンショット・ゲームによる実験で、経済学徒とその他の傾向の違いを分析している。最後に、経済学の授業が自己中心的な選択を起こしやすいことを、コースワーク前とコースワーク後の変化によって分析している。

4. 経済学を学習すると疑心暗鬼に陥る

筆者らの結論は、自己中心的なモデルを学習していると、自己中心的な行動を引き起こしやすくなると言うものだ。ただし分析結果を見る限りは、経済学徒が自己中心的と言うよりは、経済学徒は他のプレイヤーが自己中心的のように感じて疑心暗鬼になりやすいようだ。ゲーム前に他のプレイヤーと話し合う時間がある場合は、経済学徒も協力的な選択肢をしやすいことが示唆されている。

5. 世間はナッシュ非協力ゲームでは説明できない?

論文自体は社会がプレイヤーの行動に与える影響があると議論しているが、経済学徒が囚人のジレンマを引き起こしやすいと言う事は、世間一般の人は協力的な行動を選択しやすい事を意味する。つまりゲーム理論によるモデル化は、実際の社会と乖離する可能性があると言う事だ。

経済現象は生活がかかった判断になるので、実験におけるワンショット・ゲームとは人々の必死さが違う。実社会の方が囚人のジレンマを引き起こしやすいかも知れない。しかし協力行動を取る事で相互利益になる場合は、協力行動を取る可能性も否定できない。

6. 計量手法は少し不適切

やや古い論文なので、手法自体に問題が無いわけでもない。OLSで分析しているところはプロビット分析などの質的選択モデルを適応した方が望ましいであろう。ただし経験則から言えば、これが分析結果に影響を与えている可能性は少ない。後、サンプルを絞った推定結果を議論しているのだが、サブ・サンプル推定結果の表が無いのは問題を感じなくも無い。

7. 教員にはぜひ追試してもらいたい

3種類のワンショット・ゲームが紹介されているので、教員の人はそのうちの一つ、特に先行研究の部分にある最初のゲームをクラスで実験されるのも面白いかも知れない。フリーライダー問題を扱ったものだ。

それぞれのプレイヤーに一定の点数を与え、公共投資と私的投資に配分をしてもらう。公共投資は利息がつくが、元本・利息ともにプレイヤー全員に分け合う事になる。私的投資は増えないが、投資したプレイヤーが元本を回収できる。全員が公共投資をすれば全員の点が最大になるが、裏切って公共投資を減らすプレイヤーがいると、裏切ったプレイヤーが他よりも点数が多くなる。

モチベーションをどうつけるかが難しいが、他大のクラスとの平均点対抗だと説明した上で、1位になった人には図書カードなどを教員の自腹でプレゼントすれば良いであろう。他大に勝ちたいと言う公共投資モチベーションと、図書カードを得たいという私的投資モチベーションを付ける事ができる。

このゲーム、公共/私的投資の配分だけではなく、専攻・学年・性別を記録させれば、簡単な計量分析のサンプルにもなるし、得られるものは多い。集計するのが大変かも知れないが、教育効果を考えれば悪くない方法だと思う。

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