2010年5月6日木曜日

JALが破綻した理由

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日本のフラグシップ・エアラインであったJALが破綻した理由については、半官・半民であるため非効率的であったという意見が多数見られる。

確かにJASの合併後のリストラや、地方空港への就航が多いなどの問題もあるが、経営指標がどう変わって行ったか、あまり明確には確認していない人が多い。決算報告書、年次報告書の数字から最近のJALの経営を確認していって、そのX非効率性を確認していこう。

効率性の問題の前に、市場環境を確認しておきたい。日本では1986年からはANA、JASも国際線に乗り入れが可能になり、1997年からは新規航空会社の参入や一部航空料金の自由化が行われて、徐々にではあるが国内の航空市場は競争的になっていた。特に2000年からは改正航空法が施工され、航空運賃の設定は各社の自由裁量となっている。

航空自由化の後、JASの経営不振を受けて、2002年10月にJALとJASが合併することとなった。JASは相当数の不採算路線を抱えており、またJALと異なる機材を運航していた。不採算路線は言うに及ばず、機材種類が増える事も運用コストの増加を招くために、この時点でJALは従来よりもかなり高コスト体質となったと言える。旅客機の耐用年数は20年超と長いため、現在でもJALはJASの保有機体を使い続けているのだ。

上の図は、JALとANAの国内線の路線数の変化を見たものだが、2002年10月に大幅に路線数が増加している事が分かる。本来ならば、JASの不採算路線のリストラが行われ路線数が減少するはずだが、160を超える路線を長らく存続させていた。

ここでポイントになるのは、国内線はほぼ同等の旅客数を誇るANAの路線数よりも、かなり多い点である。小規模な空港であってもそこの路線を引けば、地上スタッフを常駐させる等の固定的な費用が増えるため、利用客数の少ない路線は、そのまま不採算になる確率が高い。

上の図は、JALの従業員数をあらわしている。合併後に、JAS路線の整理統合を行えれば、航空運送事業・航空運送事業関連の従業員数は減少していっている。その減少幅は緩やかなように思えるが、不採算路線のリストラのペースよりは急であることから、路線を維持しつつ、従業員を減少させていっているのが見て取れるであろう。実際に、JALは機体整備などのアウトソーシング化を積極的に進めていた。

この路線数を維持したリストラは、規模や搭乗者数で一見、成功したように思える。上の図は、国内線の利用者数の推移を見たものだが、2004年までは利用率はANAを上回り、2003年、2004年と搭乗者数もANAを上回っている。しかし、これは激しい価格競争を伴うもので、ANAよりもJALに大きなダメージを与えていた。

上は総資産利益率の変化を見たものである。JALは常にANAより低い利益率であり、2度、大きな赤字になっていることが分かる。2009年度も大幅な赤字であったと思われるが、現時点では破綻の影響か決算報告はなされていない。何とか路線と利用率を維持しようとしたが、大幅に収益性を損なっている事が分かる。

なお、下の図を見れば分かるが、別にJALの従業員の給与水準が高いわけではない。JALの方がスチュワーデスの給料は高いが、平均年齢の差も5歳ほどある。

JALとANAの従業員年収比較
JALインターナショナル単体 ANA単体
地上職員 平均44.3歳 676万円 平均43.4歳 799万円
運行乗務員 平均43.7歳 1,834万円 平均44.9歳 2,104万円
客室乗務員 平均36.1歳 588万円 平均30.9歳 473万円
出所)JALとANAの比較|ファーストクラスで海外旅行!

もちろん高額な企業年金による、退職給付債務問題も指摘されており、その点が再建の足かせになっていたことも否定できない。しかしながら、日本の法律では労務契約で定められた部分は、経営者の一存では変更し難い。JALは、2000年に給付利率の減額を行っているが、退職者の給付金額の削除には踏み込めていない。民営化前も含めた、過去の従業員への支払いは変えられなかった。

また、JALがANAよりも圧倒的に規模が大きい国際線については、国際航空運賃の自由化、同時多発テロ、SARS、原油高、リーマン・ショック等で市場環境は大変悪かった。航空会社の破綻は、日常茶飯事となっている。ANAは国際線では規模を小さくしつつも利用率を確保しているが、JALは規模が大きく利用率が低い。国際線の統廃合やコードシェア化を積極的に行う必要があったのは確かなようだ。なお、JALがANAよりも大型な機体が多いというのは、1996年にBoeing 777が出てくるまではBoeing 747-400という大型機体しか長距離運航に耐えられる機材がなかった理由もある。新鋭機に置き換えては行っているが、機材の一新は容易ではない。国際線の比率は問題とされているフリート構成にも影響を与えている。

こうやって見てくると、JALはJASとの合併後に人員削減や機材編成の面ではリストラを進めてきたが、路線の統廃合に失敗したと言えるであろう。国内では、ANAと同程度の利用者数しか無いのに、ANAよりもより多くの拠点を維持する状況に陥っている。JALが積極的な路線の統廃合ができなかった理由としては、やはり政治的な問題が大きいのだろう。破綻後に出した路線縮小に対して、16の自治体が存続求める要望書をJALに提出しているのだが、破綻前はもっと路線の廃止は難しかったに違いない。比較的、ANAは積極的に路線の統廃合を繰り返してきており、その辺りがJALとANAの差になったと考えられる。

JALは航空自由化で体力を削られていたが、政治的に路線統合だけは出来なかった。また、退職給付債務問題は官営時代から抱えている問題でもある。株式会社化をして上場済みなのに不思議な現象だが、半官・半民のX非効率性を体現してしまって来た。相対的に効率的な経営が許されるANA等の他社と競争をさせれば、JALが負けてしまうのは当然であったと言える。JALの破綻から得られる教訓は、競争的な市場環境の創出と、政治的目的を遂行する会社の両立が難しいと言う事だ。JALの破綻を回避させるには、民営化と同時に、JALの経営をもっと自由にさせておくか、航空自由化の流れには反するか、ANAにもJALと同様の制約を与えるかしておくべきだった。

競争的な市場環境の創出は、社会的な厚生を改善するのに、最も頻?に用いられる手段だ。しかし、一部の市場参加者にだけに制約を与えた状態で、不完全に競争的な市場環境を作り出すと、往々にして経営が混乱する企業が出てくる事は、政治家などの政策に携わる人々は常に意識しておいた方が望ましいだろう。

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