2010年5月2日日曜日

航空会社と燃料費用

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JALの破綻が記憶に新しいが、その引き金の一つが原油高と言われている。

ジェット機は燃費が著しく悪く、航空燃料代は航空会社の主要な営業コストの一つだ。どれぐらい経営に影響を及ぼすものなのか、どのような経営努力をしているのかを確認していこう。

JALとANAの航空運送事業費の25%を占める燃料費・燃料税

2009年度の両者のIR情報からは、どちらも営業費用の概ね25%が燃料関連コストであった。これは、航空機の機材購入費等よりも圧倒的に大きい。機材などの費用(航空機材賃借費+減価償却費)が、ANAは14%程度、JALは11%程度となっており、航空燃料価格が航空会社の支出にあたえる影響が大きいことが分かる。下の図は、JALの2009年度第2四半期の決算レポートより抜粋した連結航空会社の営業費用の内訳だが、燃料代がもっとも大きな項目であることが分かる。

航空燃料価格は5年間で大幅に変化

下の図は燃料価格の推移だ。ほとんど原油価格と同じなのだが、2004年以降に、急激に上昇したことが分かる。どうも航空会社は航空券を売った後に燃料を購入するらしく、原油価格の高騰はチケット代を値上げする前に、支払いだけが増えてしまうようだ。

多種多様な経営努力

まずは、価格施策だが燃料サーチャージの導入があげられる。原油価格の推移に応じて、なるべく航空券代を迅速に変化させることが、営業収支のバランスをとる方法となる。後は現場の努力だが、 ANAの決算報告書の中に燃料費節約の施策の章があるので、それを参照していこう。

まずは、飛行機の重量を減らし、重量バランスを改善している。JALでも、機内食のスプーンを金属からプラスチック製品に変えたり、搭載するトイレ等の水の量の計算を厳密化しているが、ANAでもほぼ同じ努力が行われている。

次に航法の改善で、逆噴射装置の使用抑制、連続降下方式、広域航法の採用を進めているようだ。つまり、加速減をなるべくせずに、なるべく遠回りをしない運航を行っている。エンジンの洗浄回数を最適化したり、燃費の悪い補助動力装置(APU)を使わない等の努力も行っている。

設備面でも、逐次飛行管理装置(FMS)や、軽量なタイヤ、ウィングレットの装備などが出来るようだが、こちらは費用がかかるせいかいきなり全面的には導入できないようだ。最新の機体を導入してしまうのが、燃料節約には望ましい。ANAの決算報告書からの抜粋だが、新鋭機ほど燃費は良くなる(なお満席で比較しているようなので、大型機が満席にしづらいことを加味すると、この比較は小型機に不利となっている)。

しかし、航空会社に出来ることは限られている

5年間で2~3倍以上もの原油価格の高騰があったわけだが、日本でもっとも一般的なB767-300を、まだ開発中のB787-8に置き換えても20%しか燃費は向上しない。航法の改善などの細かな経営努力はできるが、どれも見ても限界は低い。燃料サーチャージで価格転嫁をするのが、もっとも効果的であろう。

しかし、燃料サーチャージの高騰は需要の減少を招く可能性がある。実際、近年はJALとANAは旅客者数の減少に悩まされている。燃料価格が低い2000年度と比較して、JALの2008年度は国際線で26.1%の旅客者数が減少した。ANAも8.8%の旅客数の減少である(JALがより大きな影響を受けているのは、旅客数でANAの3倍程度規模があるためだと思われる)。

旅客数が減少しても、既に購入やリースした機材は急に減らせない。つまり、過剰資本を抱えることになるので、経営状態が悪化する事になる。

航空燃料の高騰は、JALの倒産理由となり得るか?

ここまで燃料価格が航空会社に与えうる影響を見てきたが、燃料価格の高騰はJALの経営に間違いなく影響を与えたと言えるであろう。

しかし、燃料の仕入れ価格はどこの航空会社も大きくは変わらない。恐らく航空自由化による国際線における価格競争で経営体力が削られているときに、予想外の歴史的な燃料価格の高騰が発生したので、影響が大きくなったのだと思われる。航空会社は同一機材を20年程度使うので、近年の燃料価格の高騰は急激すぎるのだ。近年の燃料価格の変動は、経営努力ではヘッジしきれないので、航空会社はかなりのリスク・ビジネスとなっている。

JALの経営努力が足りない事を指摘する人も多く、それらは根拠がある話だと思う。しかし、欧米の航空会社も次々に破綻している事を鑑みてもいいはずだ。つまり、競争的な市場を作れば、航空会社言えども何かのショックで破綻しやすくなる。政策的に競争的な環境を継続していけば、今後も航空会社が破綻することは、珍しくは無い状態が続くと思われる。

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