2021年2月18日木曜日

名著から学ぶ『働き方改革の世界史』

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最近は組織されていない職場が増え、労働争議も数が減ったが、労働者が経営側に逃散ちょうさん*1でなかった離職以外で表立って対抗するためには、労働組合は依然として重要な手段だ。しかし、労働組合がどういう経緯で生まれてきたのか、国内外でどういう相違があるのかは、ネット界隈では広く知られていない。

立命館大学の海老原嗣生氏と労働政策研究・研修機構労働政策研究所の濱口桂一郎氏がこういう状況を改善するためにか、ユニークな労働組合の歴史と構造を学ぶための本を出していたので拝読してみた。『働き方改革の世界史』は、構成から大学の半期の講義での利用を考えた節のある、労働問題に関する名著の紹介を通して、労組の始まりから没落気味なところまでの歴史と種類別の機能、さらに国際的な違いが学べる本。ただし、序章で普通の日本人は労働争議の手順すらしらないことを嘆いているが、法的手続きのような細かいことが学べる本ではない。

紹介してある本の選択も門外漢から見るとユニークで、英国、アメリカ、ドイツ、フランス、日本で実行されてきた労働運動に大きく影響を与えた思想の提唱者の本が選ばれているのだが、マルクスの著作がない。理由は海老原氏が濱口氏にインタビューする形の第5章の雑談の中で婉曲的に述べられているのだが、ドイツで一時期影響力があったものの、その後のドイツや他の資本主義国の労働運動には大きな影響を残せなかったからのようだ。アメリカにも労組はあるし、日本の労組も共産党嫌いだったりするので薄々は分かっていたが、東欧やロシアは分からないが、資本主義社会の労働運動はマルクスと決別していた。

引用部分ではない地の文の語り口は軽いし、だらだらと読んでいくとトレード(職業)型/ジョブ(職務)型/パートナーシップ型といった概念の違いが分かるようになるし色々と勉強になるので、労働組合に興味がある人にも、理論や計量を主に学んでいて制度的な知識が危うい人にも、労働組合を悪く言いたい人にもお勧めできるのだが、ぼそっと書いてある労組がマクロ経済に与える影響については、学部生も対象読者にしている本だと思うので、もう少し慎重に書いて欲しかった。「結果的にデフレ二○年間を生み出してきた日本型社員組合」(p.36)とぼそっと書いてあったりするが、それがデフレの原因と言うには理論的、計量的な分析が要るし、そもそも物価が継続的に下落していたのは「失われた二十年」の最初の十年弱でしかない。

追記(2021/02/18 21:37):同じような内容のツイートの方に、デフレに関しては「半世紀前の「聞き分けのない労働組合がインフレの元凶だ」という議論をそっくりそのまま裏返しただけ」と言う説明があった。そう言えば昔、そういう話もあった。

*1注意:1名では成立しない。

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