2016年11月4日金曜日

配偶者に無断で子どもを連れ去って離婚することを支持する家族社会学者

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社会学者の千田有紀氏が、親子断絶防止法案を批判しているのだが、共同親権と面会交流に反対しつつ、離婚時に子供を連れ去った上で親権を主張することを支持するものとなっている*1。その理由は、家庭内暴力が理由で別居するときに被害者が子供を連れて行くことが困難になること、養育をしていない親と面会する事が子供に苦痛になることの二つのようだ。強く現状肯定しているのだが、現状を良く把握していない気がする。

1. 離婚時の人間関係は様々

まず、離婚時に子供を連れ去る行為だが、親権者に相応しい方がそうするかは分からない。千田有紀氏は、妻が夫に暴力をふるわれて、子供をつれて実家などに逃げるケースを特に注意を払っているようだが、家庭内暴力が理由による離婚でも妻が被害者とは限らない。「男女間における暴力に関する調査(平成26年度調査)」(図3-1-2)を見ると、女性の三分の一弱とは言え、男性の被害者もいる。また、「平成27年版 子ども・若者白書」(第1-5-8図)を見ると、児童虐待の加害者の過半数は実母である。報道されている判例をみると、なし崩し的に母親の連れ去り行為を認定する場合が多いようだが、協議もしくは調停・審判によってしっかり定める方が適切に思える。さらに、夫の暴力が原因の離婚だとしても、夫の方が機先を制して子供を連れ去る可能性もあるが、現在はこれを違法行為だとは言えない。多種多様なケースに対応できるような制度改正は必要であろう。

2. 共同親権と面会交流の運用は柔軟に行なわれる

次に、共同親権と面会交流だが、実際の運用をもう少し考えるべきでは無いであろうか。面会交流権は今でもあるのだが、一定年齢以上の子供が拒否した場合は考慮されるそうだ。また、家庭内暴力の加害者であったり、その他の素行不良の親も面会交流を認められないことがある*2。報道内容からは、これらの条件は今後も踏襲される*3。千田有紀氏が挙げているケースで、子供の厚生を大きく損なうような状況は考えにくい。逆に、共同親権や面会交流の促進があった方が、離婚時に取り決めが行なわれるので養育費の継続的な支払いを促進したり*4、面会時に監護親の児童虐待などの兆候に気づく可能性もある。養育を主に担当する親の決定権が下がり、養育費が減額されることを千田有紀氏は批判していたが、これは分担比率による。一般的には、共同親権の方が子供の厚生改善になると言われている*5。なお、千田氏は「なぜ、この法案に養育費の規定がないのだろうか」と述べているのだが、養育費については既に制度上、所得に応じて支払い義務があるので、新たに規定する必要は無い。また、同法案の推進者は、離婚の前提として取り決めを結ぶ事を推奨している。

3. 現行法案に残る課題

もちろん、連れ去り防止・共同親権・面会交流が妥当な方向性だとしても、具体化される親子断絶防止法案が望ましいとは限らない。制度の細部や実際の運用は重要で、千田有紀氏が危惧する家庭内暴力への対策も、煮詰める必要はあるであろう。オーストラリアの法制化では、父親が権利拡大に使おうとしたり、母親が虐待や暴力を隠す結果になっていると指摘されている*6。親子断絶防止法案は、現在の単独親権制度の問題点の解決のために、超党派による議員グループが過去三回請願したものを受けたものだ。この請願、毎回内容が異なっているのだが、最新の「別居・離婚後の親子の断絶を防止する法整備に関する請願」を見ると、「二週間に一度は泊まり掛けで会える」「年間百日以上の面会・養育」とあり、大半の離婚者は実行できそうに無い*7

*1親子断絶防止法案の問題点―夫婦の破たんは何を意味するのか」「離婚した親に求められる覚悟―親子断絶防止法の問題点(2)

*2面接交流権 | 離婚と子供について | 弁護士が教える パーフェクト離婚ガイド

*3離婚後の親子面会促進へ 書面にして実効性 議連が素案:朝日新聞デジタル

*4コラム:なぜ離別父親から養育費を取れないのか/労働政策研究・研修機構(JILPT)』では、面会交流が「離別父親のモラルを高める方策」と考えられている。

*5*6"Caring for children after parental separation: would legislation for shared parenting time help children?"

なお、"(shared time) increased reluctance of mothers to disclose violence and abuse"の理由は不明。

*7報道内容からすると具体的な法案も存在していそうなのだが、推進者たちのサイトがあるのにも関わらず、それは確認できなかった。

追記(2016/11/05 21:41):Twitterで教えてもらったのだが、信憑性は良く分からないものの、2016年9月27日に親子断絶防止議員連盟の総会で配布された要綱と法案なるものを入手し、公開しているサイトがあった(面会交流等における子どもの安心安全を考える全国ネットワーク)。なお、法案の条文はまだ固まっているわけではない模様だ。

2 コメント:

Woody さんのコメント...

*7について
去る9月27日に親子断絶防止議員連盟総会にて法案について親子断絶防止法全国連絡会、NPO法人全国女性シェルターネット、弁護士の棚瀬孝雄先生から意見のヒアリングがありました。この時の法案未定稿が流出し、代表者も不明な反対意見を掲げるネットワークなるところが掲載しております。

https://article24campaign.wordpress.com/2016/10/23/%EF%BC%88%E4%BB%96%E5%9B%A3%E4%BD%93%EF%BC%891026%E9%99%A2%E5%86%85%E9%9B%86%E4%BC%9A%E3%80%8C%E5%AD%90%E3%81%A8%E3%82%99%E3%82%82%E3%81%AE%E7%AB%8B%E5%A0%B4%E3%81%AB%E7%AB%8B%E3%81%A3%E3%81%A6/

反対を表明されておられる方々の繋がりをみれば一目瞭然ですね。

hakuna さんのコメント...

*5/6 引用文献、つい読んでしまいました。
「母親が虐待や暴力を隠す」というより、「言ってもしかたないので言わない」と書いてあるような気がします。
法制化で、共同責任=同じ時間(orある一定の時間)どちらの親も子供と過ごすこと、だと勘違いしている人が多いので、暴力のことを言ってもどうせ父親も面会できるから言わない、という意味ではないかと思いました。 


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