2020年2月2日日曜日

アンチ・フェミニスト青識亜論の“インセル”批判の問題点

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アンチ・フェミニストのネット論客である青識亜論氏が、「インセル批判論序説」と言うエントリーを書いているのだが、色々と問題がある作文になっているので指摘しておきたい。

インセル(incel)とは、近年、メディアで取り上げられる事が増えてきた単語で、あからさまな性差別意識やどう猛な態度で女性に敬遠されているのに、自分の容姿が優れないために性生活が充足されないと考えている、女性を性欲を満たすためのモノとして見なす他責性の強い人格破綻者たちのことを指している*1

青識亜論氏は、フェミニズムを批判し、弱者男性の非モテとそれによる少子化の原因を女性の社会進出に求め、弱者男性の非モテの解消のために女性の権利制限を訴える反動的弱者男性救済論者のことをインセルと呼んでいるのだが、彼らは非モテとは限らないし、性的充足のためではなく少子化問題解決のための話をしているし、インセルは他責性が強い人格破綻者であることを含意する侮蔑表現なので避けるべき。

「なぜ私たちはフェミニズムを批判したのか」と御題を立てて理由を並べているが、フェミニズム一般で共有される見解と、フェミニスト個人の見解の違いを意識できていない。最近の「宇崎ちゃんは遊びたい」×献血コラボキャンペーンの絵の騒動など、ネット界隈の創作物の表現に関する議論は、女性の権利拡大運動であるフェミニズムとはさほど関係なく、個人の見解とそれに対する反発でしかない*2。転職支援会社のネット広告に使われている写真素材に関する批判に至っては、むしろスラットシェイミングと呼ばれるフェミニストが非難する行為だ*3

ポルノグラフィが福祉と言っているのだが、社会通念上は福祉は政府が供給するものだと理解されているので、ポルノグラフィは社会的厚生を改善するぐらいに言っておこう。古市憲寿氏の牛丼福祉騒動*4の二の舞になりかねない。なおリンク先の青識亜論氏のピグーの社会的厚生の説明だが、有限で稀少性のある資源の獲得と定義されていると言うのは誤りで、より公平に富が分配されても改善になるし、外部不経済を是正する制度(e.g. ピグー税)などでも改善になる。ところでピグーの福祉は功利主義的なものだけれども、功利主義は敵だったのでは?

ポルノグラフィの是非は、合理的主体による完全予見・完備契約を前提とした社会的厚生評価では簡単に定まらず、ポルノ業界の実態と倫理的立場による。AV強制出演が問題になったが、気弱な女性を脅したり騙したりする手口でポルノ撮影が行われているような実態があれば、社会的厚生を改善するか分からなくなる。被写体の女性がポルノ出演に伴う将来の不利益をよく理解していない場合も、同様だ。これらの問題が生じない場合でも、ポルノグラフィは倫理的に問題があるかも知れない。カント流の義務倫理の立場に立てば、被写体の女性の人格を無視して快楽のための手段としてのみ女性の身体を見ることは、そもそも厚生改善としてはならない。それで欲求不満に苦しんだとしても、むしろ道徳的に望ましいことである。

「インセル・ミソジニー(女性嫌悪)・女性差別」として、平安和気(@heianwaki)氏のあるツイートが参照されていたのだが、連投ツイートの一部分だけを引っ張っており、文脈無視の切り出し論法(Quote mining)になっている。文意が取りづらい主張なのだが、家族制度を否定し、女性がリプロダクティブ・ライツを持つのであれば、意志決定者である女性が経済的負担を担うべきと言う僻みであって、本当の主張は婚前交渉を禁止すべきと言うもののようだ。また、「余りにも不完全な女という存在」と言っているのでミソジニーだと思うが、この人が非モテかは不明。

有島ありす(@AliceArisima)氏の「「ガチれば100億円稼げるけど、100億円あったところで15歳の女の子とエッチできないから普通の会社員で甘んじてる人」ってかなり多い気がする」が、「人権への理解を欠いた発言である」としているが、金持ちは未成年女子と性交渉が行えるようにすべしとは言っていない。なお、性的同意年齢は13歳になっており、児童福祉法や淫行条例は適用されない条件もあるので、元ツイートの主張は正確ではない。有島ありす氏は非モテを自称しているが、「少子化改善の為には、オッサンが若い女と結婚しても許される風潮を作らないとダメ」と主張しており、弱者男性の非モテの解消は訴えていないので、青識亜論氏の言うインセルには該当していない。

成人が未成年者と性交することは制限されるべきと言う結論はよいのだが、この部分は青識亜論氏が唱えている倫理の一貫性の無さが露呈していて違和感がある。青識亜論氏は「性の商品化」礼賛しているわけで、「100億円稼げる男にやる気を出させるため」に女性を性的モノ化することは否定できないであろうし、ポルノグラフィを社会的厚生改善になるから善いと主張したのだから、突然、人権と言う概念を持ち出すのではなく、未成年者の性行為の是非も社会的厚生の観点から議論すべきでは無いであろうか。また、人権と言う概念は、何かの倫理からその権利の範囲を規定する必要があり、直観レベルの判断に使うもので、批判レベルの議論には向かない。

最後に、青識亜論氏は対話の重要性を訴えているわけだが、元グラビアアイドル/現ライターの石川優実氏とジェンダー社会学の小宮友根氏とのやり取りにおける青識亜論氏の主張を見ている限りでは、詭弁や誤謬推理にあたる主張も多く*5、対話に値しないと判断されてもやむを得ないように思える。情報が増えていかないと、なかなか有益な議論にならない。十分に、情報を増やす努力をしてきたであろうか*6。特に、専門研究者ではない人々には批判を加えるだけではなく、相手の主張をうまく整理しつつ過去の専門家の議論を紹介するように心がけたい。私は面倒なんでしませんけどね(´・ω・`)ショボーン

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