「アファーマティブアクション(AA)は支援対象の中で最も恵まれた層(だけ)が得をする」*1「(この)主張はその後の定量的な研究でも裏付けられている」と言うような話を、アファーマティブアクションなどDEI施策批判者で、英文雑誌に論文を載せてしまうNENENENE@研究氏がしていた。しかし、近年の計量分析を用いた実証研究によると、そんなことは裏付けられていないと言うか、むしろ否定的な報告も多数あるので指摘したい。
NENENENE@研究氏が根拠として参照していたSowell (2004)では、アファマーティブアクションは優遇グループの中で最も恵まれた人々(例えば、黒人の億万長者)に主に利益をもたらす傾向があり、しばしば非優遇グループの中で最も恵まれない人々(例えば、貧しい白人)に不利益をもたらすと、計量分析なしで主張されている。現在の社会科学で言うと仮説の提示。
しかし、そうなるかは状況に強く左右されるようだ。Bertrand, Hana and Mullainathan (2010)はインドの工科大学における下位カーストグループに対するアファマーティブアクションの効果を調査し、アファーマティブ・アクションによって排除される上位カーストの志願者は、彼らを排除する下位カーストの志願者よりも経済的に豊かな出自を持っていることを確認した。つまり、彼らが評価したアファーマティブ・アクションは、経済的に不利な状況にある人々をうまく捉えることに成功しており、Sowell (2004)で危惧された自体は引き起こしていない。
さらにスピルオーバー効果もあるそうだ。Bhattacharjee (2019)は、インドにおけるアファマーティブアクションは大学への進学者の増加をもたらすだけではなく、高校の卒業率や中等教育レベルでの就学率の増加ももたらすことを観測した。この研究と大雑把に整合的に*2、Cotton, Hickman and Price (2014)は、インドにおいてアファマーティブアクション対象となったグループに属する生徒の大部分が、学習時間を増加させ、数学の試験の得点を向上させることを観察した。なお、非対象グループの学習意欲の低下は確認されていない。
インドの被差別グループは貧困層で、日本の女子生徒の状況はまったく違うので、女子枠を導入する根拠にはならないが、NENENENE@研究氏の主張は裏付けられていないと言うか、どちらかと言えば否定されている。NENENENE@研究氏が念頭に置いていた実証研究を明言しない限り、NENENENE@研究氏ははったりで議論していたと評価せざるをえない。なお、アファマーティブアクションの実証研究は様々あるのだが、展望論文のTeshome (2024)をざっと見る限り、(弊害はさておき)効果はあると言うのが大方の結論のようだ。
女子枠を否定するために、AAという女子枠を含む大きな分類の施策全体を否定する必要はなく、AAを含むさらに大きな枠であるDEIの施策全体を否定する必要もない。概念が指すものが広くなればなるほど、その概念に良い面も見つかってしまい否定するのは困難になる。このことを念頭において、社会運動家として仕切りなおして欲しい。
*1ツイートを厳密に読むとまったく別の主張になりハルシネーションになっているのだが、その後の会話から括弧内の主張だと解釈できる。なお、最も恵まれた層だけと解釈したのは、(差別されているグループの中で)最も恵まれた層が得をすること自体は、AAを導入しない理由にならないため。
*2すべての研究が厳密に整合的ではない。Bhattacharjee (2019)は高校生年代まで統計的に有意な効果はないとしているが、Cotton, Hickman and Price (2014)の調査対象は小学校高学年から中学生ぐらいの年代である。
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