アファーマティブアクションなどDEI施策批判者で、英文雑誌に論文を載せてしまうNENENENE@研究氏が、「欧米先進国で「女子枠」「黒人枠」「地方出身者枠」のような選抜方式になっていないのはアファーマティブアクション(AA)は支援対象の中で最も恵まれた層が得をするという事実があるからです(Sowell,2004)」とツイートし、統計学と経済学の博士号を持つ大学教員のマクリン氏に、Sowell (2004)は事実を示したと言える論証を行っていないと批判されている(togetter)。
1. Sowell (2004)のAA批判
Sowell (2004) "Affirmative Action Around the World: An Empirical Study"は、米国、インド、マレーシア、スリランカ、ナイジェリアのアファーマティブ・アクション(AA)を議論した本で、
- 優遇グループのメンバーがAAを利用するために、非優遇グループに分類されようとする
- 優遇グループの中で最も恵まれた人々(例えば、黒人の億万長者)に主に利益をもたらす傾向があり、しばしば非優遇グループの中で最も恵まれない人々(例えば、貧しい白人)に不利益をもたらす
- 優遇、非優遇グループの双方の勤勉さを低下させ、優遇措置で能力に不相応な地位が与えることにより、社会厚生を低下させる
- 優遇グループに対する非優遇グループの敵意と、優遇グループ内で実際に優遇措置を受けられる人々への、優遇グループ内で優遇措置にあぶれた人々の敵意をもたらす
という傾向を示したとか、以下のような新たな視点を導入したと評されている。
2. Sowell (2004)が論証できている程度
Sowell (2004)は、数理モデルや計量分析で何か示しているわけではなく、学力の無い生徒が難関校に進学するが退学してしまうとか、同じ貧困層だったのに非優遇グループの方が高収入になっていったとか、優遇グループと非優遇グループで内戦がはじまったとか、そういう話の紹介からAAの影響を考察しているだけなので、現在の社会科学では事実を示したと言うのには不十分だ。AA以外の要因の影響を統制できていないからだ。
なお、新たな、もしくは非難されがちな視点を導入したというのも学問的功績だと思うし、たまに引用されているので一定の影響力はあったと言える。
3. NENENENE@研究氏のハルシネーション
NENENENE@研究氏のこのツイートは他にもミスリーディングな点がある。読点が落ちただけな気もするが、Sowell (2004)には欧米先進国で「…枠」という選抜方式になっていない理由は書いていない*1。議論しているのは米国、インド、マレーシア、スリランカ、ナイジェリアであって欧州が含まれていないし、米国で「…枠」になっていないのは、1978年のバッキ判決で、それが憲法修正14条における法の下の平等に違反すると認定されたからだ。"Both the American Constitution and statutes such as the Civil Rights Act of 1964 mandate equal treatment of individuals"と書いてあるよね?
4. ハルシネーションを防ぐ為に
NENENENE@研究氏の問題のツイートは、よくて無根拠な感想で、厳密に読むと根拠を捏造してしまっている。𝕏/Twitterで筆が滑るのはよくあることだが、よいことではない。なお文献の結論部分だけに注目せずに、その論証方法に注意を払っていると、こういう間違いは抑制できる。非難も減らすことができる。つまり「Sowell (2004)はマレーシアのAAが…」などと言い出す、細部にこだわる薀蓄野郎になろう。きっと「うわっ」と思われてミュートされ、議論の粗を非難されることは少なくなる。
ところでジェンダー学者の皆さん、人のふり見て我がふり直せという諺がありまして。
*1"quota"で検索して前後を斜め読みし、生成AI(gemini)にクォータが導入されない理由は書いていないか確認した。
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