アメリカの大卒と非大卒の間で、政治的問題関心や支持政党が異なる政治的分断があると言う認識の政治批評を多く見かけるのだが、アメリカ人の書いたものも含めて、白人福音派(white evangelicals)という大きな政治的要素を見落としているものが多いので指摘したい。
福音派は1970年代に台頭した新興宗派の総称で、信者の総計は1億人ほどいると言われる。福音派の7割ぐらいが白人福音派だそうなので、7000万人。白人福音派は共和党の支持層で、共和党候補者を決める予備選を左右すると言われる。共和党、特にトランプ政権への影響力は確かで、アメリカは欧州と比較してもイスラエルの軍事行動に甘いわけだが、白人福音派の意向だと知られている。
2020年と2024年の米大統領選では、福音派の非大卒の8割超がトランプ氏に投票したが、非福音派の非大卒白人は、僅かだが民主党支持者が多い。また、福音派の大卒の6割超がトランプ氏に投票した一方で、非福音派の大卒白人は6割超が民主党候補に投票している*1。
アメリカの大卒と非大卒の間の政治的分断を認めるのは難しい。大卒の方が民主党支持者が多いのは確かだが、白人福音派の共和党支持の方が、傾向がはっきりしている。また、アメリカの大卒、とくに政治的エリートは、非大卒の利益に配慮している。アメリカの高学歴層は民主党支持者で、民主党はブルーワーカーや貧困層の厚生改善に熱心だ。オバマ政権はオバマケアで低所得者の健康保険カバー率を引き上げたし、バイデン前大統領は、史上、もっとも労働者よりの大統領と言われた。
高学歴の左派活動家で、社会的弱者の不利益になってしまう無思慮な主張をしている事はある。警察予算を減らせ運動(defund the police)が典型だ。しかし、大勢の高学歴者はそれに同意しているわけではない。実際、民主党はdefund the policeを拒絶するどころか、警察予算の大幅拡充を主張している*2。defund the policeは、アメリカのリベラルや民主党批判でよく取り上げられるのだが、リベラルに対しては誇大広告論法になっており、民主党に対しては藁人形論法になっている。
時代の変化で、民主党の支持者が大卒高所得者になり、共和党の支持者が非大卒低所得者になったと言う主張も見かけるのだが、これは傾向が一致しない統計があるので、さらなる検証が必要だ。データジャーナリストのPatrick Flynn氏が作成したプロットがそれを示しているのだが、Pew Research Centerのレポートのプロット*3は、Flynn氏作成のプロットと矛盾するように思える。大統領選挙とその他で、投票先の傾向が異なるのかも知れないが。
逆に直近の変化として、2020年には白人福音派の中ではバイデン大統領に投票した人も47%と多かった大卒女性が、2024年には24%と民主党から離脱しており、これがスイング・ステートのトランプ勝利の一因とも言われる。これは明らかに大卒と非大卒の間の溝が広がったことを意味しない。福音派白人の政治的傾向が、学歴の違いを超えて強まったことを示唆する。
投票行動や外交政策の違いがあるからと言って直ちに分断があるとは言えないが、白人福音派は、歴史的に人種差別を是認するか黙認してきており*4、また現在も黒人が(職も探さず)政府扶助を最も多く受給していると(誤って)信じている一方、貧困層向けの政府扶助プログラムに反対する傾向がある*5。寄付や社会奉仕に消極的と言うわけではなく、その連帯や利他性が白人コミュニティーに限られる傾向があるようだ。つまり、連帯感と言う意味で、白人福音派はその他と断絶している。
*1The 4 working-class votes | Brookings
*2Democrats Reject Calls to Defund Police With Spending Requests - Bloomberg Government
*3Party affiliation of US voters by income, home ownership, union and veteran status | Pew Research Center
*4福音派は差別に加担しているのか?(1)アメリカの福音派と奴隷制度 - Chosen+Sojourners
福音派は差別に加担しているのか?(2)差別に対する教会の反応:KKKの福音と黒人教会の発展
福音派は差別に加担しているのか?(3)公民権運動と福音派の応答: キング牧師とビリー・グラハム - Chosen+Sojourners
*5How Race, Religion, and Democratic Values Shape Attitudes Toward Government Assistance - PRRI

 




 
 
 
 
 
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