2023年9月3日日曜日

海洋や大気などにあるトリチウムは、来年以降も、どんどん減っていくので

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福島第一原発の処理済汚染水に含まれるトリチウムに関して、生体濃縮やら何やらといった用語を持ち出し、その危険性を強調し、処理水の海洋放出に反対する人々がいる。その中には科学者に分類される人や、原子核物理学を学んだと称する人々もいるのだが、皆さん、冷戦時代に核兵器の実験で地球に大量のトリチウムがばら撒かれた事、残存総量の5.4%強が毎年崩壊して無くなることを見落としている。

予定年間放出量の処理水に含まれるトリチウムの量は2.2×10¹²Bqとされる*1が、地球全体では微々たる量だ。毎年、宇宙線で7×10¹⁶Bq(処理水1年分を1とすると、31,818)ほど増えるし、全世界の原発から2×10¹⁶(〃 9,091)ほど放出されている。過去の核実験では2.1×10²⁰Bqほど放出された( 〃 9,545万)*2

毎年放出しても、環境に蓄積されることはない。トリチウムは一定時間に一定の割合でβ崩壊し、電子とニュートリノを出した後、ヘリウム3になる。半減期は12.32年なので、1年間に約5.47%がβ崩壊する。過去の核実験由来のトリチウムが、大雑把に1960年に排出されたとすると*3、大部分が消えて2.8%ぐらいになっている*4

一方で、大雑把な前提からのだが、核実験由来のトリチウムは6×10¹⁸Bq( 〃 2,741,168)の残量がある。これは処理水1年分の150,202倍の核実験由来のトリチウムが今後1年間にβ崩壊して、海洋や大気などから消えていくことを意味する。宇宙線由来のもの、原発由来のものも、β崩壊していく。処理水の海洋放出は、大気や海洋の中のトリチウムの総量はほとんど増やさないし、大気や海洋の中のトリチウムの減少傾向は変わらない。

仮にトリチウムからの海洋放出が永久に続いたとしても*5、β崩壊があるので毎年の放出量の18倍程度で均衡する。トリチウムからの被爆量は1960年代の水準に戻ることはないし、1960年代にトリチウムで何らかの公害が確認されたわけではない。処理水に含まれるトリチウムの危険性を考えることは難しい。トリチウムを理由に海洋放出反対派の皆さんは、冷戦時代に核兵器の実験で地球に大量のトリチウムがばら撒かれた事、残存総量の5.4%強が毎年崩壊して無くなることを見落としている。

*1環境省_トリチウムの年間処分量 ~海外との比較~

*2環境省_トリチウムの自然界での存在量

*31960年代前半が核実験のピークで、トリチウムの放射性降下物のピークは1962年であった(環境省_トリチウムの放射性降下物の経時的推移)。

*4地球の表面に1.0~1.3×10¹⁸Bq(〃 545,454倍)ほどのトリチウムがするという推定から議論しようかと思ったが、水野 (2019)の計算方法を参照すると、どうもこれは核実験や原発由来のトリチウムを考えずに、宇宙線由来のトリチウムとβ崩壊の均衡値になっているようなので、今回は用いなかった。

*5ウランの核分裂は止まっているようなので、原理的にはおそらくない。

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