2023年7月9日日曜日

ヘイトスピーチは不合理な差別や排斥を煽るような言説に使う言葉だよ

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ネット界隈のアンチ・リベラルの人々が、ちょっとした蔑視の表明(にとれる言及)に対してヘイトスピーチだと非難するようになってきた。一部の社会学者やリベラル活動家が、気に入らない言説を安易にヘイトスピーチと言って回っているのを真似しているのだと思うが、日本での「日本人男性は○○の意識が低い。」と言うような言説は、ヘイトスピーチに該当しない。「日本人男性は○○を努力しろ。」という呼びかけと解釈するのが穏当なので。

1. 辞書的な意味

そもそもヘイトスピーチとは何であろうか。辞書的な意味を確認しよう。国連の文書*1の中では、以下のように説明されている。

In common lunguage, “hate speech” refers to offensive discourse targeting a group or an individual based on inherent characteristics (such as race, religion or gender) and that may threaten social peace.(拙訳:共通言語における「ヘイトスピーチ」は、人種や宗教やジェンダーといった固有の性質に基づく攻撃的な言説で、かつ社会の平穏を脅かしうるものを指し示す。)

オクスフォード学習辞書*2では以下だ。

speech or writing that attacks or threatens a particular group of people, especially on the basis of race, religion or sexual orientation(拙訳:特定の、特に人種、宗教、性的指向に基づく集団を攻撃もしくは脅かす発話もしくは執筆)

ケンブリッジ英語辞書*3では以下だ。

public speech that expresses hate or encourages violence toward a person or group based on something such as race, religion, sex, or sexual orientation (= the fact of being gay, etc.)(拙訳:人種や宗教や性別や男性同性愛者である事実などの性的指向のようなものに基づいた個人や集団に対する強い嫌悪や敵意の表明もしくは暴力の扇動)

慶應大学法学部教授の塩原良和氏のエッセイ「ヘイトスピーチと「傷つきやすさ」の社会学」では、以下のように説明されていた。

ヘイトスピーチを、人種・民族/エスニシティ・宗教・ジェンダーといった集団に属しているとみなされた人々に対して、そうした属性を侮蔑し差別意識を煽って憎悪をかき立てるような表現と定義する

2. よく知られた実例

辞書的な説明だと捉えづらい人々は、ワイマール共和国で出回った「ユダヤ人がドイツを裏切ったために、第一次世界大戦でドイツは敗北した。」と言う嘘を思い出して欲しい。ユダヤ人に裏切り者の烙印を押すことで、ユダヤ人への差別、排斥を扇動しようとしており、おそらく虐殺にまでつながった。もともとユダヤ人差別や蔑視が強い地域であったこともあり、差別や排斥をもたらす扇動であった。

3. 蔑視は直ちにヘイトスピーチにはならない

殺せや追い出せといった明らかに特定のグループを敵視した露骨な扇動であれば、ヘイトスピーチと認定することは容易だが、「日本人男性は○○の意識が低い。」と言うような蔑視の場合は、それが不合理な差別や排斥をもたらすか立証することが必要だ。日本の政治や法曹や企業経営の場、とくに上層部において、日本人男性は圧倒的な多数派であって、不合理な差別に抵抗できると言うか、排斥したら社会が成り立たない。実現可能性を考慮して解釈すると、男性に振る舞いを変えて欲しいと言う主張と捉えざるを得ない。

蔑視発言も時と場合によっては差別や排斥をもたらす扇動になる。しかし日本で日本人男性に関する蔑視発言がヘイトスピーチになる可能性はまずない。「女性は会議は(無駄に)長い。」と言うような主張はどうであろうか。雇用機会均等法もあるし、取締役の女性枠を設けるように上場企業に求めている現在、女性の登用機会が減るとも考えづらいのだが、仮に企業のトップが公言すれば、その企業では女性の採用や昇進が避けられる可能性は高くなる。権利侵害の予兆に敏感なフェミニストがヘイトスピーチと捉えたとしても不思議はない。

4. ヘイトスピーチにならない蔑視発言も不徳なので

こういう説明をすると男女非対称になっているとネット界隈のアンチ・リベラルの人々は御立腹になるのだが、差別や排斥をもたらす扇動になるかと言う観点にたつと、どうしても男女非対称になる。また、機械的に判別しづらいのは受け入れ難いと言い出すのだが、ヘイトスピーチと言う言葉が指し示すものはそういうもの。差別や排斥をもたらす扇動だと指摘したい場合、指摘できる場合でもなければ、蔑視はよくないと指摘すればよいのであって、無理にヘイトスピーチだと非難する必要はない。バーカと言われたからバーカと言い返したいだけのアンチ・リベラルの人々は、それでは満足できないであろうが。

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