2019年8月14日水曜日

日韓外交の専門家は、もっと安倍政権を褒めるべき

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韓国に限らず地域研究全般に言える事だとは思うが、韓国政治の研究者は日韓の相互理解を深めて日韓関係を良好に維持したいと願っているもので、日韓の軋轢に対して否定的な感情を抱いてしまい、直観的にネガティブな評価を下し、日本政府に対して穏便な対応を求めてしまう。ネット界隈で知名度のある木村幹氏も浅羽祐樹氏もその例外ではないようだ。

1. 具体的にどうすべきかは言及されない批評

徴用工問題に関して同様だ。木村幹氏は時事通信のコラムで、「事態の正確な分析を怠ったまま、自らの理解を安易なステレオタイプに押し込んだままで議論を続けている」と批判しているが*1、木村幹氏の言う正確な理解をしたときに日本政府がどう振舞うべきかについては明言しない。木村幹氏が言うように徴用工問題が「「日韓関係を根本的に損なうほどの重要性を持った問題だ」という認識を有するには至っていなかった」のであれば、日韓関係が悪化していることを認識させた上での*2、安倍総理の「最大の問題は、国家間の約束を守るかどうかという信頼の問題だ」「日韓請求権協定に違反する行為を一方的に行い、国交正常化の基盤となった国際条約を破っている」と言う記者会見での発言*3は、韓国側の認識に修正を迫る適切なものでは無いであろうか。木村幹氏は、安倍総理のこの記者会見の発言について、時事通信のコラムでは言及していない。

浅羽祐樹氏も文春オンラインのインタビュー記事で、友人と見なせなくても敵ではなく粛々と事を一緒に為す日韓関係を構築しろと主張しているのだけれども、徴用工問題に対して日本政府がどうすればよいかはっきりとした見解を示してはいない。徴用工問題を切り離し、他の外交的課題について協力していくと言う選択肢をとれと言うことなのかも知れないが、それはなし崩し的に韓国が日韓請求権協定での合意を破ることを容認することになる。しかし、浅羽氏もそれが日本にとってもっとも利益がある選択だとは断言できないであろう。韓国が他の問題に拡大しないとも限らないし、韓国以外の国も真似をして一方的な条約違反を行うかも知れない。米国の同盟国で、北朝鮮という共通の脅威を抱えているから対決は望ましくないような指摘もあるのだが、そんなの関係なく韓国は竹島を占領して李承晩ラインを引いたし、朴正煕は米国の同意なく軍事クーデターを起こして黙認された。米国、日韓の問題にもともと関心が無いし、ましてや仲裁をして板挟みになりたいわけではない。さらに「(日韓)の間には、過去そのものよりも将来のビジョンをめぐって大きな齟齬が生じています」と言う事なので、日米が基本的に連携していることを考えると、米韓の同盟関係もそのうち崩れるかも知れないし*4、すると同じ同盟国を持つ国家と言う意味での気遣いは不要と言うことになる。

2. 日韓外交の専門家の意見は反映されている

ここ数か月の日本政府の対応、そう悪いものには思えない。木村幹氏によると、韓国政府と韓国国民は日本の重要性を忘れてしまっており、文在寅大統領は韓国が被害者になるように話をすり替えてくる詭弁の使い手である*5そうだ。また、自らのすり替えで形成した国民情緒に沿っている事を理由に正当性を訴える*6マッチポンプを好む。浅羽祐樹氏は、日韓関係において当事者意識がないと断罪する*7。こういうわけで、韓国にとっての日本の重要性を認識させ、日本政府のメッセージを韓国メディアや韓国国民に伝える必要があった。

具体的な手段も妥当なものでは無いであろうか。韓国側を真面目にさせるには、ある程度、刺激的なものである必要がある。振り上げた拳を下せないような方法もとっていない*8し、協定を守ることを主張し、第三国を入れた仲裁委員会の開催を求めるのは、将来に遺恨を残すものでも、国際社会から非難されるような類のものでもない。日本政府は、木村幹氏の3月のアドバイスに沿った方向で、破滅的ではない手段を選択している。敵には回さないが友人とも認めていない範囲であり、浅羽祐樹氏の主張からも妥当な外交に思える*9。輸出管理の問題も、徴用工問題とは関係ないと言えるだけの浅羽氏が重視するロジックはある。

木村幹氏と浅羽祐樹氏の話からすると、安倍政権、うまく振舞っているのでは無いであろうか。もう少し、韓国政治の研究者も、安倍政権を評価してもよいと思う。もちろん、韓国世論が明後日の方向に飛んでいき、国民情緒法で収拾がつかなくなる恐れもあるわけで、対韓外交で褒めると言うのは危険極まりないのは分かっているが。

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