2019年3月16日土曜日

就業時のパンプス義務は重要な労働問題だけれども

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就業や就職活動で履くパンプスが足に負担だと言う女性の苦情が盛り上がっている。Twitterでの#kutooタグを見ると、女性が痛々しく靴擦れしたり*1、外反母趾になって変形した足を晒しているのが確認できる。メディアでも取り上げられはじめた*2。パンプスが意味するモノが思い浮かばない男性は少なくないと思うが、パンプスは甲が出るヒールのついた女性の靴で、概ね爪先が細い。男性も履く紐の無い革靴はローファーと呼ばれている*3

従業員の健康管理に関わるわけで、履き物は重要な労働問題である。労働契約法第5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする」とあるからだ。また、判例によると「服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認められる」ことになっている。

服務規律でパンプスが義務なのかは疑問なのだが*4、多くの職場で実質的に義務と考えられているようだ。口頭で着用を強制されている場合の他、先輩女性従業員の服装に習うことによって、暗黙のルールとして形成されているようである。日本経済新聞2019年3月6日に掲載された「新社会人応援講座」では、産業能率大学の川村みどり兼任講師の弁としてヒールの高さ3cm~5cmのパンプスが推奨されていた。もちろん、就業規定で明示的に指定されている場合もある。

汚らしい格好やだらけた服装は顧客や見込み客が不愉快に思う可能性があり、現状の社会規範からいって明るい色のスニーカーは認められないであろう。しかし、ローファーで仕事をしている女性も多いし、外回りでパンプスを履くのが苦痛なので編み上げブーツを履いているが、特に問題にされていなさそうなツイートもある。判例を見ても、合理性が認められる服装規定の範囲は狭い*5。実際問題、権限を持つおっさん男性諸氏は、女性の服装についてはよくわからず、パンプスであるべき理由などほとんど無い。

厳密には裁判官の判断を待たねばならないが、就業規定のパンプス着用義務には事業遂行上の必要性は無く、従業員の健康管理、安全配慮義務から雇用主はローファーの着用を勧めるべきであろう。「職場でのパンプス着用の強制をなくしたい」と言う署名運動の主張自体には賛成せざるをえない。しかし、これ、署名運動で解決すべき問題なのであろうか? ? 大抵の職場では上司や周囲のローファーの着用了承を取り付けるのは容易そうであるし、そうでない場合でも、団結して雇用主にローファーも認めるように服務規律の変更を求めたらすぐに解決するのでは無いであろうか。

権限を持つおっさん男性諸氏は女性の服装についてはよくわからないので、ローファーを認めろと言われて反対する理由は無いように思える。女性管理職も、痛い目をしているはずだ。職場によっては躊躇するかも知れないが、解決できないほど労使が対立する問題には思えない*6。組織率が落ちて労働組合が経営側に安全管理を求めなくなっていたり、結婚したら女性は寿退職を前提にできた労働組合は女性の健康管理に無関心であったりして、交渉する術が無いときもあるかも知れないが。

追記(2019/11/18 09:35):連合が「女性が履くパンプスのヒールの高さをめぐり、社内ルールがあると回答した会社員が11.1%に上る」ことを調査で確認し、「性差別だとして着用強制に反対する」方針をとると報じられた(時事ドットコム)。連合の傘下労組へのアンケートではなく、登録されたモニターへのインターネット調査のようなのが気になるが、もっとも望ましい方向であるように思える。

*1靴擦れであれば「3M マイクロポア」と「靴ずれパッド 足指用」などで対策している人も多いようだ。

*2広がる「#KuToo」 パンプス強制反対署名、1万人超える - 毎日新聞

*3図を描いて説明してくれている人がいた

*4採用面接に関しては、パンプスかローファーかは問わないとする企業担当者がほとんどである(就活生のヒール、ぶっちゃけ気になる?企業に聞いたら、同じ答えが… - withnews(ウィズニュース))。

*51997年の東谷山家事件ではトラック運転手の髪の色を、2009年の郵便事業事件では髭や長髪を制限することに事業遂行上の必要性が認めらていない。男性にスーツとネクタイを着用させることは社会通念に照らし合わせて合理的とされる(2015年エリゼ事件)が、ビジネス・フォーマルと言う点で男性のスーツとネクタイに代替肢が無い一方で、女性のパンプスにはローファーと言う選択肢がある。

*6航空会社のスカイマークの制服のスカート丈が航空労組から苦情を受けて変更になった事例や、英ヴァージン・アトランティック航空が客室乗務員のメイク義務を廃止した事例などから、経営側もそう固執しないように思える。

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