2026年9月26日土曜日

男性の家事負担と出生率の相関について

東大の山口慎太郎氏の2021年12月15日JSPS男女共同参画推進シンポジウムの図が恣意的に観測値を減らしていると非難されていた。OECD加盟国が網羅されていないためだ。

非難と批判が妥当なものか評価するために、散布図を作成してみた。多少は雑である気はするが、少なくとも恣意的に分析国を選んだとは言えない。また、言われているほどデータは落ちていない。

この図及び、関連した議論から(山口氏の主な主張である)ジェンダー平等の推進が出生率向上につながる蓋然性は低いと思うのだが、この図をつついてもあまり建設的ではない。

1. 恣意的とは言えない

山口氏が参照している範囲において、男性の家事負担率と出生率という発想はFeyrer et al. (2008)のFigure 5がもともとになる。山口氏は、2020年11月の財務省でのプレゼン資料や報告書では、日本語に翻訳し(注にある作成手順を削っ)たものを紹介していた。

Feyrer et al. (2008)のFig. 5は2000年と2002年とデータが古く、また回帰直線がひかれていないためだと思うが、山口氏は2021年のシンポジウムのプレゼン資料では、2010年から2019年の調査年のデータを使って新たに図を作成している。

データセットの作成が若干雑であったとは思う。2003年調査かつ、調査時点ではOECD非加盟国のリトアニアが混じり、ノルウェーが抜けている。しかし、オーストリアやデンマークがないと言うような非難は不当だ。この図がつくられた2021年時点で利用可能なOECD Time Use Database 2018では*1、オーストリアの調査年は2008/09年、デンマークは2001年であるからだ。また、OECD加盟国でもそもそも何も利用できない国は多い。リトアニアを落としてノルウェー2010/211年調査(原文ママ)を入れて推定をしなおしたが、傾向は変わらなかった。

なお、最新のデータセットで2010年からと言う限定をせずにプロットもしたが、(係数が1%有意が10%有意になっているが)あまり話は変わらなかった。

2. ジェンダー平等は出生率を向上させるか?

このプロット自体からは、因果は主張できない。子供の数が多くなると、妻だけでは家事・育児が回らず、夫も駆り出されると言う説明もつけられる。また、相関も見た目ほど単純ではない。この傾向は中所得国では逆になる。核家族化の影響など、他の要素も絡んでいる。

山口氏は『「人口動態と経済・社会の変化に関する研究会」報告書』では、AERという経済学のトップ学術雑誌に掲載された論文Doepke and Kindermann (2019)を参照することで、ジェンダー平等は出生率を向上させる蓋然性が高いことを主張している。この論文は大規模な国際アンケート調査(GGP)の結果に対して理論的な説明をつけることで、ジェンダー平等の推進(女性の家事・育児負担の削減)が出生率を向上させることを主張するものだ。

この内縁の男女を含めた夫婦に対するアンケート調査によると、欧州では妻よりも夫の方がもう一子持つことに積極的である一方、夫と妻の双方の合意がないと、3年後にもう一子がもうけられる確率は低い傾向が示されている。つまり、妻が出産に消極的であることが、少子化の原因だと考えられる。なぜ、妻はもう一子を欲しがらないのであろうか。この論文では、夫婦の現在から将来の獲得賃金と夫婦間交渉に着目して理論モデルを構築し、出産で生じる機会費用を妻が多く負担するためだと主張している。さらに、構築したモデルを用いて政策の比較評価をしており、女性の育児負担をピンポイントで引き下げる政策がより効果的であることを主張している。

さて、理屈はしっかりついているのだが、エビデンスのレベルは低い。夫が家事をより多く負担する/負担できる夫婦の出生率が高いことが、アンケート調査の結果から確認していないからだ。(夫婦別ではなく)国別で見て男性の家事負担率が高いほど、夫婦のもう一子への願望の相違が小さくなることは見ている(FIGURE 2)し、個々の夫婦単位で夫婦のもう一子への願望の相違が3年後にもう一子がいるかいないかに影響することは見ている(TABLE 2)が、個々の夫婦単位で夫の家事負担率が3年後の出生に影響するかは見ていない。

もう一子もうけることに関して夫婦の意向が異なる理由は、他にもつけることができる。男女の選好の差によるかも知れないし、男女の将来家計収入に対する見積もりの差によるものかも知れない。Doepke and Kindermann (2019)の説明は理屈が通っており現実整合的ではあるが、それが正しいことを示すエビデンスがもっと必要だ。

3. まとめ

データセットから幾つかの国が欠落していることは議論にほとんど影響はないので、山口氏作成の図にある粗が恣意的であるとは言えない。ちゃんと作ったほうが良いと思うが、チェリーピッキング云々と言うような非難は不当だ。

一方で、問題の図(の補正版)を枕にしたジェンダー平等の推進は出生率を高めると言う議論に、強いエビデンスはない。Doepke and Kindermann (2019)は理論的に因果となりえることを説明するが、それだけである。なお、仮に男性の家事分担に出生率を引き上げる効果があるとしても、ジェンダー平等の推進によって育児における女性の機会費用が高まらなければそんな効果は生まれなかったはずなので、男性の家事参加と具体的に言った方が語弊が少ない。

*1the OECD Time Use Database 2026の、シートArchive 2018を参照

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