東京大学の山口慎太郎氏の『子育て支援の経済学』にある家族関係社会支出と出生率の相関を示すプロットからOECD加盟国のイスラエルと韓国が抜けていて、分析年の2015年にはまだ加盟していないラトビアとリトアニアが入っており、分析対象国を正しいものにして再推定を行ったら、係数の有意性ガンくなったと批判されていた(Twitter)。
1. 差分モデルで概ねOK
即時に山口氏が訂正を出した。最初、最後までしっかり読まずに、訂正文のイスラエルはやはり除外したプロットの方を見て、イスラエル以外も宗教的・文化的な要因は様々であるわけで説明が苦しい、家族関係社会支出の変化と出生率の変化で回帰すればよいのではないか、実際にやってみたら…と言っていたのだが、よく見たら、補足:支出の変化と出生率の変化の関係(その後の追加分析)で既に同じ分析がされていた。補足された方のプロットで、だいたい問題はない。
なお、ここで差分モデルと読んでいるのは、計量分析の固定効果モデルの単純版。yを合計特殊出生率、xを家族関係社会支出、iを国をあらわす添字、tを時点、αᵢを国ごとの宗教的・文化的な要因を含む固定効果、ϵᵢₜを誤差項と置くと、合計特殊出生率と家族関係社会支出の関係は、yᵢₜ = αᵢ + ꞵ₀ t + ꞵ₁xₜ + ϵᵢₜと書く事ができる。t期とt-1期の差分をとると、yᵢₜ - yᵢₜ₋₁ = ꞵ₀ + ꞵ₁(xₜ - xₜ₋₁) + ϵᵢₜ - ϵᵢₜ₋₁とかけ、固定効果αᵢを消してコントロールする。
2. ランク基準線形モデル
残念なことに差分モデルも一般線形回帰(OLS)では、中所得国などを含めると、やはり係数に統計学的な有意性が無くなる。チリとハンガリーが異常値で引っ張られるのだ。誤差項の分布の裾野が広く、誤差項が正規分布でなくなっているとも言える。こういうときは、ロバスト推定を使う。 ランク基準線形モデルを試してみた(クリックで拡大)。
ロバスト決定係数や効果量の大きさも高いとは言えないが、係数のp値0.026なので5%有意となり、緩やかに相関しているとは言える。なお、予測区間はFAQサイトのブートストラッピング法の例のOLSの部分をRfit(ランク基準線形モデルのパッケージ)に置き換えたもので、t分布を仮定していないのでコレで良いのだと思っているが、教科書や論文などで裏が取れている手法ではないので、マンガの背景的な「お気持ち」と捉えて頂きたい。スプラインでつないで境界をなめらかにしていますし。
効果量
効果量は大きくない。仮に家族関係社会支出が出生率を決定しているとしても、10年でGDP比で1%ポイントぐらい増やしていっても少子化は食い止められない。切片項の係数がマイナスなので分析対象国全体に少子化トレンドがあり、それがかなり大きいからだ。仮に家族関係社会支出から出生率への因果があったとしても、文化的なところを変えないと、少子化を止められないことが示唆されている。
頑強性
イギリスとアイルランド抜いたら逆の相関になったりしないかと言う疑問があって、ありそうだなと思って抜いてみたのだが傾向が変わらなかった。予測値に近い観測値が推定量に与える影響は相対的に小さいため…と説明ができる。テコ比(Leverage)云々。係数が有意な逆相関を目指してさらに観測値を抜いていったのだが、NZL, GBR, IRL, POL, MEX, AUS, FINの7つを抜く必要があった。ロバスト推定すごい。
3. 因果は逆かも知れない
さて、この分析は相関を見ているだけで因果は見ていない。出生数が増えると世帯給付やら所得控除やら子ども手当やら現物給付(e.g. ワクチン接種)やら何やらの対象者が増えるので、家族関係社会支出は自然増になる。家族関係社会支出を増やせば出生率が上がる効果は制度からあると言えるので、それを拾っているだけかも知れない。
4. まとめ
山口氏の当初の推定に問題があったのは確かで、イスラエルを特別扱いにするのに納得はいっていないし、中所得国を排除することに納得がいっていない人もいるが、不正(チェリーピッキング)ではない。より厳密な手法を用いれば、サンプルを広めにとっても相関があるという結論は維持できる。ただし、政策論としては、この分析はあまり大きな意味はない。



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