大学入試の女子枠批判者として知られるNENENENE@研究こと國武悠人氏が、「貧困・地方・両親非大卒は(実際には奨学金が充実していたとしても)同境遇者の少なさによって"安全な"大学に出願する傾向が数々の研究で指摘されています」と主張しているのだが、日本ではそんなことは無いので指摘したい。
小林雅之 (2007)「高校生の進路選択の要因分析」を参照すると、理工系では間違いなく上位になる国立大学への進学は、家計所得や地域にさほど影響されていないことが図示されている(下、図3と図4)。主に影響されるのは、私大。NENENENE@研究氏の言っていることの逆。
NENENENE@研究氏は地方/低所得家計出身者と話す機会が乏しいのかも知れないが、多少、多様性のある環境で生活していれば、こうなる理由を耳にする機会はある。日本は非名門大学の方が学費が高い傾向があるし、学歴の低い保護者は名門大学の名前しか知らないので、地方の低所得家計からは名門大学にしか進学できない(ことが多い)。
浪人を回避するために東京大学ではなく他の旧帝大や地方国立にするようなケースはあるとは思うが、それは「同境遇者の少なさ」が理由ではないし、旧帝大や地方国立は不遇とは言い難い。私大の理工学部は学費が高いので、国公立に進学できなさそうであったら大学進学をあきらめる*1と言うのが、地方/低所得家計における典型パターンだ。
名門大学の女子枠が増えたら、地方の低所得家計の男子学生は進学できなくなる可能性が高まるという話で持論の補強になるわけだし、この辺はちゃんと抑えて欲しい。NENENENE@研究氏は「数々の研究で指摘されています」と言うけれども、日本の研究を見ていないようだ*2。欧米の研究を参照するのがいけないとは言わないが、日本的な一般入試のないアメリカの入学選考を安易に持ち出すとミスリーディングになりがち。
*1就職する場合が多いが、専門学校に行くケースもあり、統計を見ると男子は前者、女子は後者を選び勝ちである。
*2NENENENE@研究氏が参照している文献の要約(もしくは本文の前半)をチェックしたのだが、
- Hoxby and Avery (2016)は、アメリカの低所得家計の生徒が難関高に出願しないことを指摘している
- Hardy (2021)は、アメリカの地方の家計の生徒が(2年制のコミカレに進学し)四大に進学しない問題を議論している
- Fletcher (2011)は、アメリカのテキサス州において、高校生の進路に対する同級生の影響(ピア効果)があることを指摘している
- Binning, Blatt and Votruba-Drzal (2021)は、大学の成績に対する同じ高校出身の存在の影響を指摘している
- Gazmuri and Prager (2024)はカナダのオンタリオ州の高校生の大学出願が、年上の同級生の大学出願の影響を受けていることを指摘している
と言うものであった。
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