2020年3月27日金曜日

セクハラ質問に怒りだす人工知能(AI)を検討してみよう

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ツイフェミの皆さんが駅案内サイネージに使われている接客・窓口システム「AIさくらさん」を非難したことに関して、過去の架空の女性キャラクターの表現物への非難*1とあわせたネット論客の青識亜論氏のエントリーを見かけたのだが、ツイフェミの皆さんの説明不足もあって、彼らの問題意識を微妙に拾えていない。今日も過剰に「思いやりの原理」を働かせてみよう。

1. シンパシーと自己投影は生じてしまうもの

表現物の中の女性的な存在の振る舞いを、人々が(そしてツイフェミ自身が)どのように受け取ってしまうのかと言う実証的な問題であって、実際、青識亜論氏が批判するあるツイートでも、「AIさくらさん」が自分自身とは異なる架空の女性キャラクターに過ぎないとしても、それが女性の表現物である限りは、シンパシーを感じ自分を投影して考えてしまうと理解でき、女性が女性表現をどのように受け取るかが問題にされていることが分かる。インフォーメーション・スタッフの代替物なので、一般女性が心理的に近く感じやすい面もあるだろう。描いた人や開発した人がそれに込めたメッセージや、架空の女性キャラクターが自身を不幸に思っているとは言えないことから、規範的にシンパシーを感じるのは不当だという青識亜論氏の議論では、女性の感情への配慮が一切されていない。しかし、“お気持ち”も道徳的に考慮すべき事柄だし、女性の自尊心を喪失させることで、社会問題が生じるかも知れない*2

2. セクハラ質問に怒りだす方が望ましい可能性

さて、上は前のエントリーと同じ話になるので、別の観点を提示してみたい。「AIさくらさん」は、セクハラ質問*3を上手に受け流すのではなく、「セクシャルハラスメントになりうる質問にはお答えできません」と言うように、質問者の非を指摘する応答をすべきと、ツイフェミの皆さんが考えていると想像すると、もう少し議論に広がりが出る。リンクを失念したが、そのような主張をしているツイートも見かけた。

ソーシャル・リベラリズム的には、受け流しと非を指摘のどちらが「AIさくらさん」の設置目的に合致するのか、どちらがどう操作している人々に影響するのかを整理した上で、是非を決めることになる:(1)機械にセクハラ質問をする男性は、「AIさくらさん」などの反応で女性の正しい振る舞いを学習するので、男性はセクハラ質問に抗議する女性に逆切れするようになってしまう*4のかも知れない。(2)セクハラ質問の非を指摘すると、鉄道会社に対する苦情を増やすことになり、業務の支障になるのかも知れない。(3)受け流しを非を指摘に変えても、操作するセクハラおっさんに何も影響しないとすると、受け流し対応を嫌う女性に配慮した方が、世の中は善くなるかも知れない。

なお、ツイフェミの皆さんは「AIさくらさん」の振る舞いだけではなく、女性がセクハラ質問を受け流すことを男性が期待する社会をつくりかねない表現物すべてを非難したいと考えている*5ので、「AIさくらさん」のような例外的な存在だけを問題視していないことには注意しよう。社員教育などで初めてセクハラ発言をセクハラ発言と認識する男性は少なくなく、メディアの影響は大きいかも知れない*6。女性が男性にはっきり意見を言えないために生じている面もあるのだが*7、どうも女性は生得的に交渉などを回避する傾向があるので*8、そこは変えられない前提が暗に置かれていることにも留意しよう*9

3. 用語について

議論には関係ないのだが、哲学では絵や写真といった自分の外部にある表現物を観た人が、知覚や記憶などで内的に持つイメージを指す「表象」と言う用語は使わないことを推奨したい。ジェンダー社会学者が使っているから踏襲したくなるのは分かるのだが、性的モノ化などをみても彼らの言葉は乱雑である*10。また、炎上は非難が集中することの形容なので、だいたいの騒動においては非難しているツイフェミの方が炎上していることにも注意して欲しい。

*1過去の議論は雑誌の表紙やポスターに関するものであり、架空の女性キャラクター表現の振る舞い方問題であって、方法を問わず計算機に推論をさせる技術、それを応用したソフトウェアやハードウェアを指す人工知能(AI)と関係があるのは、今回の「AIさくらさん」が最初になる。

*2痩せすぎや過食症などを引き起こしたり、学業不振に陥ったり、自暴自棄になって身を持ち崩すような話である。詳しい説明は、以前のエントリーを参照されたい:エロ可愛い格好は女性に有害

*3モノにはセクハラは成立しないが、モノにもセクハラ質問をすることはできる。(1)裁判官や倫理委員会などがセクシャルハラスメントに該当する発言や行為を定め、(2)それらの発言や行為を女性が実際に不快に思ったときにセクシャルハラスメントは成立する。セクハラは受けての主観に左右されるわけだが、セクハラ認定される発言や行為は外形的に定められる。

*4女性が不当な要求に従わないといけない男性優位社会と言う事になる。

*5前のエントリーで説明したが、女性自身の振る舞いや、女性がそれから受ける圧迫感も問題にしている。

*6メディアが重犯罪を促進する効果は無さそうではあるし、家庭内の性別役割分担も思い込みよりも男女の選好や身体的な違いによって定まっている面が強いと考えられるが、セクハラ発言は言葉と女性の反応に留まる問題なのでメディアの影響が大きくなる可能性はある。

*7社会学者アーヴィング・ゴッフマンによると、メディアにおけるジェンダー表現は人々の性別認識から自然に見えるように作られる。つまり、「AIさくらさん」がセクハラ質問を受け流すのは、そのような振る舞いが社会的に自然だからとも言える。

*8関連記事:なぜ女は昇進を拒むのか ? 進化心理学が解く性差のパラドクス

*9リベラル・フェミニズムは女性も男性のように振舞えることを前提にした性差ミニマリズムであるが、ラディカル・フェミニズムはそうではないので、本来のフェミニズムは・・・と言い出さないようにして欲しい。なお、1968年9月7日のミスアメリカコンテスト反対運動など、(反資本主義)ラディフェミは女性の振る舞いにあれこれ言ってきた伝統がある。

*10関連記事:ジェンダー社会学者が適切に用語を選んでくれないので話が分からなくなる問題

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