先日、Linux Desktopの利用者シェアが5%を超えたと話題になっていた*1。Windows 10のサポート切れと、TPM 2.0必須のWindows 11のシステム要件から、Linuxを試している人が多いのか。来そうで来ないLinux Desktopの時代が来てしまうのか。
手元に古いPCがあったので、私も久しぶりにLinux Mint 2.2をインストールしてみた。ハードウェアの問題が生じづらいので、 Ubuntu Linux 11を最後にLinuxは仮想マシン(VMware/Hyper-V/WSL)で動かしていたのだが、危惧した問題は生じず快調に動く環境ができあ上がった。
1. インストール
当初、Ubuntu Linux 24.04をインストールしようかと思ったが、古いPCが古すぎてファームウェアがUEFIではないために頓挫した。15年前のPCなので仕方がない。ビデオカードのファンがホコリで動かなくなって、分解掃除とシリコングリースのスプレーで復旧させたことのあるぐらいの時代遅れの品。しかし、Linux Mint 2.2はBIOSの古いPCでもインストールができる。
古いPCに入っていたHDDのフルバックアップはとってあったので、(Windows Vista以降、標準ではC:\Users\ユーザー名以下に置いてある)移動させるデータを外付けドライブに退避し、USBメモリーを用意する。USBメモリーに必要な容量は3GB強なので、PCと同様の時代遅れの品を用いる。インストール用のISOイメージをダウンロードし、Rufusを用いてブータブルUSBメモリーにする。これを古いPCに挿してリブート、(起動画面でF10もしくはF2を押してファームウェアの設定画面を出すなどし)メディアのブート順序をUSBメモリー優先にすると、Linux Mintが起動する。Installアイコンがあるので、クリックするとインストール開始だ。
インストール手順はLinux Mint 21.xと同様で、何か参考ページがあれば迷うことはない。設定項目も少ない。Microsoftがクラウドサービスに主軸を移した以降、WindowsではMicrosoft アカウントの入力を要求し、(場合によってはかなりの害がある)オンラインバックアップを執拗に勧めてくるが、Linux Mintはそういうことはない。簡単。新しいiPhoneを買ったときの後の方が大変かも知れない。インストール完了後、ブート順序をHDD優先に戻して完了になる。古い米系メーカー製PCのせいか、ハードウェアのデバイスドライバーは揃っていた。
注意しておきたいこともある。インストール直後は日本語入力が使えない。Windows風のスタートメニューから(検索文字imで絞り込んで)入力方法を呼び出して、日本語タブを選択し、入力方式フレームワークをiBusFcitxを選択した。Fcitxでも良いはずだが、現状、評判は悪いので(追記:iBusの方で変換候補のリスト表示位置の都合が悪い不具合が出て、Fcitxで問題解消した)。IMEのMozcはインストールされていたので、これで日本語入力が使える。なお、このメニューは日本語での検索が使えない。ショートカットはキーボード、拡大鏡はユーザー補助で設定でき、どちらもkeyで絞り込んだあとにリストされている。拡大鏡のショートカットは難解なので、適当に割り当てておこう。「アクセラレーターを選んでください」と言う表示で、実際に使うキーの同時押しを促しており、日本語が難しいが。
アプリケーションはブラウザーのFirefoxとオフィス製品のLibreOfficeは標準で入っている。インストールはUbuntu Linux 24.04とほぼ同様のパッケージマネージャーのaptが使える。最近、Ubuntuが力を入れているsnapは標準では入っていないが、困ることは少ないはずだ。リソース消費量の観点で言うと、snapは避けた方がよい。また、(Ubuntuと同様に)現時点でOneDriveは標準サポート品より新しいバージョンのクライアントが必要で、リポジトリの追加が必要だ。こちらは開発者向けなので苦にする人はいないと思うが、Visual Studio Codeもリポジトリの追加作業が要る。
2. 使用感
軽快に動いて快適。Windows 7よりもで、起動も速い。リソースモニターで見る限り、メモリー利用量もLinux Mintの方が1GB以上、少なかった。15年前のWindowsよりも、軽いOSに仕上がっている。また、仮想マシンを使うよりも、やはりそのままインストールした方が快適だ。メモリーなどのリソース消費が抑えられる他、ホストOSとゲストOSを二重管理する手間がない。
Linux Mintの標準の操作は、Ubuntuの標準よりも古い素朴なWindowsに近い。画面の配置もそうなのだが、Windows KeyとEの同時押しでエクスプローラー(Mono)が起動し、Windows KeyとDの同時押しですべてのウィンドウの最小化ができる。仮想デスクトップは標準ではない。ターミナルで作業することが多いので、Ubuntu Linuxのエクスプローラー(nautil)と比較してどうこではないが、Monoはタブや左右分割などもできて使い勝手は良い。「ニュースと関心事項」が無いのは、助かる。
アプリケーションに関しては、オープンソースのプログラミング言語を使ったウェブアプリケーションの開発や統計解析やLaTeXによる文書作成が主な利用目的なので、Windowsよりも快適だ。これらで使うソフトウェアはUNIX/Linuxが開発の中心であることが多い。組版システムのTeXや画像編集ソフトのGIMPも同様。Visual Studio Codeなどの統合開発環境も問題なく動く。マクロを書いてずっと使っていたWindowsの古いテキストエディター(WZ-EDITOR)や、たまに使っていたMP3ファイルの音量調節ソフトMP3GainもWindows互換システムWineで動いた。
UNIX/Linux発祥のソフトウェアはWindowsやMacOSでも動かすことはできるが、多少なりとも無理が生じている。コンテナ化技術を実現するDockerの苦労話は、MacOSとWindows環境下での利用での話ばかりだ。問題が生じない場合でも、最近のWindowsアプリでは要求されないような設定が必要になったり、アプリケーションごとにUNIXライク環境Cygwinが入っていたりするので。複数インストールするとある意味無駄にストレージを圧迫している。
もちろん、アプリケーションが十分かはユーザーの用途による。iTunesが利用できないので、iPhone/iPadユーザーは困難に直面する。iPhone/iPadで完結している場合は良いのだが、iCloudの容量消費を嫌ってPCにバックアップをとっていたり、昔ながらにMP3ファイルを管理している人には向かない。Wineを使えばiTunesを動かすことができるそうだが、説明を読む限りは手間な上に、古いバージョンのiTunesをAppleのサイト以外から入手する必要がある。また、Microsoft社製品を中心に使っている人はLibreOfficeに移行になるし、特に使い込んでいる人は細部で苦労すると思う。Office製品は(実用的には)Wineで動かすことも無理だそうだ。
Linux界隈の癖的な部分は残っている。VS Codeのようにサードパーティーのパッケージ・リポジトリの場所を指定するときは、Mint Linux 22.2はUbuntu Linux 24.04と同等と言う話の通り、Ubuntu Linux 24用のリポジトリを指定するのだが、それぞれZaraとNobleと違うコードネームをつけているので、間違わないようにしないといけない。逆にWindows的にしすぎと言うか、ユーザーホームのDocumentsなどのディレクトリがカタカナにされてしまい、ターミナルから使いづらいと言う問題もある。LANG=C xdg-user-dirs-gtk-updateで英単語に変更できるが。
ところでターミナルで円マークとバックスラッシュ(エスケープ文字)が別扱いであることに注意しよう。バックスペースの横のキーを押しても入力できないので、シフトの横のキーを押そう。
3. 感想
速度的には文字通り桁違いに遅いPCにインストールしたわけだが、このLinux Mint Boxで仕事をしろと言われてもあまり困らない。25年ぐらいのOSのユーザーインターフェイスの変化は発展と言えるのか疑わせるのには十分であった。性能向上したハードウェアのリソースは、ユーザー体験の向上と自社サービスへの囲い込みを狙ったOSの肥大化・複雑化で浪費されている。
セキュリティー機能の強化などの正当な理由もあるのだが、TPM 2.0を必須にし、BitLockerの利用を標準にする必要があったのか疑問がなくもない。回復キーの保存場所としてMicrosoftアカウントの重要性を増すためではないのか。盗難によるデータ流出リスクは減ったが、起動自体を阻害するまでも無いからだ。2010年に、押収したマフィアのHDDにあったTrueCryptで暗号化された情報を、警察が解読できなかったことがある。
Linux Mint 22.2は、こういう方向で発展して欲しかったOSになっている。脱Windowsも不可能ではない。まぁ、そろそろ壊れそうな古いPCで仕事をする気はしないであろうし、OSのインストールなどなるべくしたくはなく、新しいPCを買えばWindowsがプリインストールでついてくるので、実際に業務PCで脱Windowsするところはほとんど無いと思うが。
*1「Linux」がデスクトップ市場で6%を超える--米国政府データが示す成長の兆し - ZDNET Japan
ついにLinuxデスクトップのシェアが5%に到達、アメリカの複数の指標で5%超え - GIGAZINE
ただし直近2ヶ月の7月、8月は5%未満で推移しているようだ。
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