2024年3月3日日曜日

意見論評はどこまで口汚くやってよいのか? — 暇空×堀口・暇空×伊藤・暇空×熱海のあっつんそれぞれの地裁判決から考える

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多額の寄付で得た資金力を活かして名誉毀損訴訟を多数おこなっている暇空茜氏*1だが、熱海のあっつん氏を訴えた訴訟では勝訴、伊藤和子弁護士を訴えた訴訟では敗訴、堀口英利氏を訴えた事件については地裁は敗訴となった。それぞれ勝訴した方が、判決文を公開している*2。SNSで言い争いをする人々には、参考になる事件だ。

虚偽の事実の摘示や、公益性のないプライバシー侵害(e.g. 政治家や芸能人でもない私人の離婚の暴露)は不法な名誉毀損として認められやすい一方で、意見論評は広く適法と認められる傾向がある。虚偽の事実と意見論評の境界になる、過去の言動をもとにした人物批評も違法にはなりづらい。

暇空×堀口裁判の地裁判決は、意見論評の中の侮蔑表現は受忍すべきであり、また、他人を侮蔑している人は、同様に侮蔑されるのを受忍しなければならないとしている。暇空×伊藤裁判の地裁判決は、「(暇空氏が)マジョリティを怒らせるようなマイノリティの活動に対して妨害行為をおこなう人物であるとの事実摘示」も、真実相当性があると判断している。摘示された事実の真実相当性が争点になってはいるが、これは暇空氏の過去の言動に対する意見論評でもある*3

一方で暇空×熱海のあっつんの地裁判決は、意見論評として認める範囲と、許容する意見論評についてかなり厳しいものとなっている。熱海のあっつん氏は暇空氏へのカンパを「まんまカルトよ」だと論評し、その多額さに関して「詐欺師がよくやる見せ金ってやつじゃないですかね」と言及したのだが、裁判官は、カルトだと言う論評は「意見論評の域を逸脱」したもので*4、「…ってやつじゃないですかね」と言う断定はしていない見解の表明を、事実の摘示だと認定した。弁護士の弁護方針がよくなかったと言う意見もあった*5が、裁判例ではある。熱海のあっつん氏は控訴しなかったのでこの地裁判決は確定している。

似たようなツイートで判決が分かれた暇空×伊藤と暇空×熱海のあっつんの判決だが、暇空×伊藤は公になっている事実から推測した結論だと(多少の飛躍があるかも知れないが)説明できていたが、暇空×熱海のあっつんは裁判官が合理的な推論だという理屈をつけることができなかった。判例では推論に多少の飛躍があっても許容されるが、暇空氏が「投稿を…たくさんの人の目に触れることを目的とした虚偽の疑惑の内容の投稿を行って」いるので「カンパについて見せ金を行う可能性もあり得た」という反論では、真実相当性は認められなかった。暇空×伊藤は疑惑ではなく確定した根拠に基づく推論であった。

3件の地裁判決から得られる教訓は、次になる。事実の摘示については、確定したと言える根拠に基づいて慎重に行う必要があるのはもちろんのこと、事実の摘示ではなく意見論評だと解釈されるように表現を選ぶ必要がある。私の言語感覚から言えば意見論評であるのでかなり厳しい気がするのだが、「…ってやつじゃないですかね」は事実の摘示と解釈された。しかし、裁判官には逆らえない。一方、公になっている根拠が示せればかなり口汚く人格を批判しても、意見論評の範囲として認められる。

なお、言わずもがなだが、この3件の判決を参考に限界を試すようなことはしない方がよい。逮捕報道をもとに被疑者を罵ったところ不起訴になって悪罵が名誉毀損と認定された事件がある*6し、信憑性の低いサイトの情報では真実相当性が認められなかった事件がある*7

*1「本件に関して名誉毀損訴訟をたくさん提起できたのもカンパのおかげです。本当にありがとうございます」(カンパ1億388万円集まり、6371万円使いました|暇空茜

*2熱海のあっつん訴訟⑥判決 熱海のあっつん敗訴!!|暇空茜

暇空茜氏から提訴された名誉毀損訴訟、 当方勝訴。地裁判決を公開します。|伊藤和子(弁護士)KazukoIto 東京・神楽坂

【完全勝訴】「暇空茜」こと水原清晃により提起された訴訟の判決に関するお知らせ|堀口 英利 | Horiguchi Hidetoshi

*3社団法人への監査請求やその活動に関する暇空茜氏の批判の動機については、他者は推測するしかない。

*4ある弁護士の意見では同定可能性がないことを主張することに主軸を置いた弁護方針が悪かったためで、控訴したら覆せる可能性は低くないようであった。

*5吉峯耕平氏の連投ツイート(2,3,4,5

*6AV会社の社長に対する「名誉毀損」で賠償命令、訴えられた伊藤弁護士「血の通った判決ではない」上告の方針 - 弁護士ドットコム

*7ラーメン・チェーン店名誉毀損事件(刑事)

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