2022年9月28日水曜日

安倍元総理の国葬による弔問外交で得られた成果

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安倍元総理をはじめとする多数の自民党議員が統一教会と関わっていたために、各社の世論調査で賛成多数から反対多数に変化した故安倍晋三国葬儀が終了した。武道館周辺ではデモも行なわれていたが、そう規模は大きなものではなく、弔問者の長い列の方が目立つもので、概ね平穏に済んだと言える。

もちろん、当日の状況がどのようなものであっても、色々と問題含み*1な事は代わらないし、世論が支持したことにはならない。国葬を行なうことの利益とされた弔問外交の機会としての意義がどの程度のものであったかも、現場の活気から判断することはできない。弔問外交の成果として、実際、何が得られたと言えるか考察してみよう。

1. 安倍信者基準では失敗

7月中旬には空前の規模で各国の現役閣僚が来日し、ロシアのウクライナ侵攻について和平を模索する弔問外交が展開されることで、安倍元総理の国際的評価が高まると言うような事を主張している安倍元総理の支持者もいたのだが*2、欧州主要国の現役閣僚は来日しなかった。彼ら弔問外交の意義を熱烈に強調していた人々の基準からすると、弔問外交は失敗。

2. 安倍元総理は伝説ではない

もちろん訪日した外国要人の格が落ちるので、「失敗、失敗、ワロスワロス・・・」と言うのは短絡的過ぎる。シンガポールのリー・クアンユー元首相や、南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領の国葬に世界の要人が集まったのは、彼らが国内外の大多数から見て伝説的な偉業を成し遂げた人物だったから。安倍元総理の国葬が同じようになると思った人は、大いに反省して欲しい。

3. 他の元首相と比較すると悪くない

故安倍晋三酷葬儀は、小渕元総理の内閣・自民党合同葬と比較すると来賓の数と序列は落ちるが、新型コロナウイルス禍で葬儀のために訪日した外国要人がいなかった中曽根元総理の内閣・自民党合同葬や、橋本龍太郎内閣・自民党合同葬よりは、圧倒的に多くの外国要人が訪日している。なお、サッチャー元首相の準国葬と同程度。現役の主要国のトップが、元総理の葬儀に出席すると考えるのが無理があるのだ。日本だって外国の元首相の国葬に出すのは、元総理までとなっている。

4. 国葬で行なわれる会談は表敬目的

国政に決定権が無い人が弔意を表すためやってきた弔問外交にどのような意義があるのであろうか。訪日した外国要人との会談は大概は表敬訪問であって、中身にほとんど意義はない。バイデン大統領はエリザベス女王の国葬の出席時に、弔意を表しに来たと言って、イギリスで首脳会談を行なわなかったし、安倍元総理はリー・クアンユー元首相の国葬の出席時に、同様にシンガポールで首脳会談を行なわなかった

5. 訪日する外国要人の序列がメッセージ

何かを話し合うためではない弔問外交にどんな意義があるのであろうか。訪日する外国要人の序列がメッセージとなっている。つまり国葬は、日本との関係を重視しているかを、日本や第3国に示す場なのだ。

過去の人になっていない元首相の葬儀であれば、元首相ぐらいの特使を出すと言う相場感から見て、実際の特使の序列が高いか低いかを見よう。王、大統領、王太子、副大統領、首相は、間違いなく日本重視だ。元大統領、議会議長、外務大臣も相場よりは上ではないであろうか。ただし、駐日大使しか出していない国が日本軽視とは限らない。日本だってフランスのシラク元大統領の国葬に駐仏大使しか出していない。

今回の来賓の皆さんの肩書きは、それなり興味深い。アメリカ、インド、オーストラリア、韓国、インドネシア、ベトナム、フィリピン、モンゴル…などの特使は高位と見做すことができる一方、中国の特使である全国政治協商会議の万鋼副主席はそうではない。安倍元総理が提唱した日米豪印戦略対話(QUAD)や、それから構築しようとした対中包囲網の影響を如実に感じる。中国と経済的関係は深い一方で、中国からの軍事的圧力を受けている国々が結束しようとしている・・・と牽強付会できる。

なお、日本も(意図したか不明だが)中国に強烈なメッセージを送ることになった。献花のときに台湾代表団を、中国・台湾でもなく、中華民国ではなく、台湾と呼んで中国から非難された。キッシー、弔問外交の枠を超えているよ。どうせ挑発するのであれば、蔡英文総統を呼んで欲しかった。

6. 安倍元総理の国際的評価が高まったのか?

日本の国益と関係ないのだが、国葬によって安倍元総理の国際的評価が高まったと言うことはない。安倍元総理の国葬が、統一教会との関係が取りざたされて、世論の支持を受けていないことは広く報道されている*3あるリベラル系ニュースサイトでは、国葬を機会にした記事で、嘘の達人(Master Liar)、不正直な安倍(DISHONEST ABE)と回顧していた*4

7. 安倍元総理の国葬による弔問外交で得られた成果

全体としてみると、中国の軍事的拡張に対して、アメリカ、東・東南アジア諸国の多くの国、オーストラリア、インドが協力して対処することにコミットしていること、また、少なくとも日本とアメリカは台湾もまた対中協力の輪の中にあると考えていることを、中国に伝える外交的成果があった。他の機会で幾らでも伝えられることとは言え、弔問外交で成し遂げられる最大限に近い成果だ。国民が支持しない国葬を強行した成果として十分かは分からないが、安倍元総理が目指した方向にはなった。

各国首脳が会談をして国際紛争が解決したり、安倍元総理が建国の父のような伝説的人物と並ぶ大物であることが確認されたり、国葬によってその安倍元総理の国際的評価が高まるようなことは無かったので、安倍元総理の熱心な支持者には物足りない弔問外交の成果ではあると思うが、水たまりでマグロは釣れない。こんなもんかと満足しよう。

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