2026年2月28日からのアメリカのイラン攻撃は、戦術的には華々しい成果をあげているが、戦略的にはどん詰りだ。開戦前の(専門家の予想通り)イランの政治体制を崩すには至っていない一方、イラン国内をまとめられる政治指導者を何人も殺したので、イランは譲歩が困難になっている。
アメリカがイランの政権転覆を実現することは不可能と見られる。連邦議会と世論はイランへの軍事作戦を支持していない。大規模な地上作戦は実施できない。革命も期待はできない。イランの反政府勢力は、昨年の大規模デモ後に粛清された。治安部隊隊員の個人宅を襲ったり、過激化したのが裏目に出た。
イランの現在の政治指導部が譲歩したくなるまで軍事的に締め上げるのも困難だ。トランプ政権は予算及び武器弾薬の残量から、地上作戦どころか大規模な空爆も再開できない*1。弾薬はまだ半分残っているが、他の地域での作戦行動のための余力だ。効果的な斬首作戦であったが、その種*2は割れてしまっている。海上封鎖も穴がある*3。そもそも海上封鎖だけで音を上げてくれる見込みもない。
交渉で相互に妥協するような展開もなかなか考えづらい。トランプ氏の交渉スタイルは、一方的な主張を続けるというものだ。相手が譲歩するか、法定闘争になって敗訴してきた。相手が受け入れられる合意案を提示するタイプではない。トランプ大統領としては、オバマ政権時代の2015年7月イラン核合意(JCPOA)以上にイランに不利な条件で合意をしたいわけだが、イラン政府はトランプ政権の足下を見ているし、下手な情報は体制を揺るがす。
さて、ここまでの話は周知の状況ではあるはずなのだが、どうもアメリカの攻撃でイランの政治体制は瀕死で、トランプ政権の意に従った合意が間もなく結ばれると主張している動画配信者の界隈があるようだ。しかし、その可能性は低い。アメリカ経済への悪影響が深刻化し支持率が低下しても、トランプ氏が妥協を模索するような事も過去履歴からすればなさそうである。共和党から離反者が出て弾劾の可能性が高まれば渋々動く可能性はあるが、与党内の不和は選挙の敗北につながるため、それは簡単には起きない。
追記(2026/04/29 02:18):イランは停戦期間中だけ通行を許可するとしていた(イラン、停戦期間中のホルムズ海峡「完全開放」を宣言 米軍は「必要な限り」封鎖を継続 - CNN.co.jp)が、停戦条件が破られた後も、イラン革命防衛隊に申請を行い認められることで通過ができるようだ(日本関連タンカー イラン側と調整のうえホルムズ海峡通過か 停戦合意後では初 | KSBニュース | KSB瀬戸内海放送)。例外的な措置なのか、対価が必要なのかなど詳細は不明。
*1Iran War Has Drained U.S. Supplies of Critical, Costly Weapons - The New York Times
*2イラン国内に張り巡らされた監視カメラネットワークがハックされ、イスラエルの情報源となっていた(Inside the US-Israel plan to kill Iran’s Khamenei | Military News | Al Jazeera)
*3Iran Ships 4 Million Barrels of Oil Despite US Naval Blockade, Tanker Trackers Reveal Resilient Exports


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