2013年10月23日水曜日

改正労働契約法と賃金デフレに関する池田信夫の奇妙な言説

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経済評論家の池田信夫氏の『雇用改革なしに「デフレ脱却」はできない』と言うコラムが出ていたのだが、一度主張したら不退転の決意でそれを主張し続ける池田氏の性格が良く現われた内容になっている。

改正労働契約法について相変わらず事実誤認があり、デフレーションの賃金要因説に関しても錯乱があるようだ。主義主張のために事実認識や論理展開が捻じ曲がっているのは良くないと思うので、問題点を指摘してみたい。

1. 改正労働契約法18条への誤解

まずは労働契約法だが二箇所、誤りがある。

他方、当コラムでも批判した労働契約法の「5年を超えたら正社員にしろ」という規制は、全国一律に10年に延長された。大学の非常勤講師などに大きな影響が発生し、厚労省も折れざるをえなかったのだろうが、もともとこんな規制は去年までなかったのだから、撤廃するのが筋だ。

改正労働契約法で、有期労働契約が通算5年を超えたら労働者の希望によって無期契約に転換できるようになった。しかし、通年上の“正社員”とは単に雇い止めが無い事だけではなく、勤務地や職種などの異動制限が無い事なので、“正社員”に転換されるわけではない。また、待遇を引き上げる必要も無い(厚生労働省)。池田氏も「正社員の特権」と言っているし、まさか無期ならば全て“正社員”とは思っていないであろう。

この無期雇用への転換ルールが今まで無かったわけではない。つまり、有期労働契約でも反復更新により実質的に無期になっていた場合や、雇用継続につき合理的期待が認められる場合には、有期契約でも無期契約と同様に扱うべきだと言う判例法理があるので、現状追認でしかない。裁判にならないと気付かなかったわけだが、同様のルールは去年までもあったわけだ。

2. 賃金デフレについての混乱

一見するともっともらしいが、辻褄はあっていないのが以下の部分。

日本経済の停滞をまねいてデフレを発生させているのは、安倍首相の勘違いしているように金融政策ではなく、日本的雇用慣行がグローバル化に対応できていないことだ。新興国との価格競争で、製造業のコスト削減は避けられないが、企業が正社員の雇用を守ったまま新規採用を絞って対応しているから、労働者の4割近くが非正社員になり、平均賃金が下がったことがデフレの最大の原因だ。

新興国との価格競争で賃金を下げる必要があり、そして平均賃金が下がったと主張している。この論理だと上手くいっているので、日本的雇用慣行がグローバル化に対応できていないとは言えない。

また、池田信夫氏は正社員の待遇を下げる事だけが環境変化への対応だと思い込んでいるようだが、仮にもしそうだとしても、やはり賃金は下がるわけで賃金デフレの原因になってしまう。

なお名目賃金の下落がデフレーションの要因になったと言うのは『デフレーション』の請け売りなのでは無いかと思うが、同書では「賃金が伸縮的に変わることによって雇用は『守られる』のである」ともあり、池田氏のように「正社員の特権」を批判し続けているわけではない。

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