2013年6月16日日曜日

大阪 ─ 大都市の地方自治はどうあるべきか

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橋下大阪市長周辺の議論の理解を深めるために、大阪市立大学の砂原庸介氏の「大阪―大都市は国家を超えるか」を拝読した。

何かと話題の「大阪」と言う地方自治体を分析しており、一読する価値のある本だとは思うのだが、サブタイトルに該当する内容が本文に見当たらない部分以外にも、幾つか違和感が残る部分があるので述べてみたい。

1. 大都市の地方自治のあり方にある問題

大阪に限らず大都市の地方自治のあり方がテーマで、戦前の三大都市特例や三等級選挙制度などから説明される政治史と、大阪の抱えて来た政治的な問題についてまとめられている。議論が広範なので一言で説明するのは無理があるが、様々な行政課題を処理するのに、(1)国・府・市の間の税収と権限の配分と、(2)首長と議会と政党の関係が問題なようだ。大阪府と大阪市の二重行政問題は(1)に入ると思う。

2. 実行能力の向上と効率性の維持

地方自治体の行政機構の評価軸としては、「都市官僚制の論理」(都市開発事業の実行能力の向上)と「納税者の論理」(行政の効率性の維持)で見ているようだ。整理できない密集市街地の問題などがあるとは言え、市長のもとで大阪市の専門官僚制が高い自律性を保っており(p.132)、そのチェック機能が弱体化している(p.133)と指摘しているので、大阪は実行能力が高く効率性が低いと、言及はしていないが著者は見ているように思える。

3. 政党政治で地方自治を改善

政治制度の本ではないので最後に書かれた主張に唐突感はある*1のだが、著者は知事や市長の権力が上述の問題を抱えるだけではなく、首長が多様な自治体全体の集合的な利益を一元的に代表してしまうと一貫性が欠如すると指摘する。議会の権限を強化する一方で、比例代表制の導入で政党が議員をコントロールできるようにすべきだそうだ(pp.214--215)。

4. リーダーシップはあるのか無いのか

ここからが難癖だが、まず「リーダーシップ」が多重定義されており混乱してくる。大阪の都市開発事業の実行を、著者はリーダーシップの発揮だと形容する(p.132)。しかし、開発事業の重複などでリーダーシップが無い事を批判している(p.100)。市にリーダーシップ(政策実行能力)がある一方で、府にリーダーシップ(政策調整能力)が無いと言う事なのであろうが、カタカナ語の氾濫はやめて頂きたい*2

5. ミクロ経済学的に何かがおかしい

言葉が大きく足りないか、ミクロ経済学を勉強して頂きたいと思ったのが、再開発事業の過剰な競合を批判する以下の部分(p.100)。

個別の事業で、民間資本は事業にかかった費用を回収し、なるべく多くの利益を上げようと考える。そのために、個別の事業が高層化・大規模化することとなり、結果として再開発事業がさらに過剰に競合する。このような民間資本の論理を止めるような一元的なリーダーシップは、大都市には存在しえないのである。

投資量が大きいと、その回収に多くの売上が必要となるので、必ずしも利益が上がるわけではない。また、個々の民間資本は、競合他社の事業計画にあわせて投資量を決定することになる。バブルでも無い限り、民間主導で過剰投資はなかなか起きない。一元的なリーダーシップは必要ない。そのバブルだったわけだが。

6. 潰れる会社を見守ると言う選択肢

以下の部分は、自治体が民間資本を誘致したときに示した条件に大きく依存するのでは無いであろうか。

経営破綻したビルの買い取りなどで、関係する自治体が大きな負担を強いられる。

民間資本が自発的に暴走したのであれば、自治体は破綻処理を見守ればいいはずだ。

7. 個別政策を都市官僚制/納税者の論理で評価?

著者は「都市官僚制の論理」と「納税者の論理」の両立が難しいと主張し(p.206)、橋下氏の「大阪都構想」が両方を内包しており、政治姿勢に一貫性が無くなっていると批判する(p.214)。政治機構の設計で二つがトレードオフになると言う主張ならば理解できるのだが、個別の政策の評価基準としても例として適応されており、何かがおかしくなっているように感じる。

保育事業と文化事業の例があげられていたのだが、同じ赤字の保育事業と文化事業に対して、同じ首長が異なる評価を下したとしても、二重基準とは言えない。行政サービスとしてのニーズが二つで違えば、許容される自治体の負担も変わってくる。納税者の論理を重視しても、単独事業では赤字だからって、府警を無くせと主張する人は少ないはずだ。

8. 細部で気になる所はあるけれど

大阪の政治史に詳しくない身としては、全般的には知識の補充として面白く読めた。何かと唐突感のある橋下徹氏だが、歴史的に継続した議論を行っている事が分かる。自民党政治との関係や、東京都制の成立で特別市運動が終焉した恨み節*3も取り上げられており、細部で気になる所はあるけれど、大阪の政治史の紹介として充実しているように思える。

次の国政選挙で日本維新の会が選挙で躍進もしくは惨敗する前に読んでおけば、色々と物知り顔ができるかも知れない。

追記(2013/06/18 11:04):著者のリプライが来たので追記しておく。

*1個人のカリスマへの依存が下がるのは理解できるが、既存政党も利益誘導に走る側面はあるから違いが良く分からない。比例代表制だと、特定団体の影響が少なくなったりすると言う既存研究があるのであろうか。

*2よく読むと“一元的”リーダーシップが欠如しているとあるが、分かりづらい。

*3「東京とその他の大都市という対立」(p.173)と表現されている。東京と周辺への一極集中は確かだが、これを対立と見なしていいかは良く分からなかった。

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