2014年3月22日土曜日

STAP幹細胞騒動に飛び込む前に見ておくべき動画

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理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子氏が開発したとされる刺激惹起性多能性獲得(STAP)幹細胞を巡って色々と議論されているのだが、電気泳動実験についての解説記事が不足しているような気がする。剽窃や流用などの行為そのものも問題なのだが、それら以外にも小保方論文の主張の根幹部分に影響する不正行為がどのようなものかは、この問題を議論していくには、やはり知っておくべきだと思うからだ。

1. 小保方STAP論文のポイント

根幹部分と言うには理由がある。小保方論文ではT細胞を酸につけたら、多能性(幹)細胞が出来たと主張し、これをSTAP(幹)細胞だと命名している。この主張を成立させるためには、(1)STAP(幹)細胞が本当に多能性を持つ事を示し、(2)STAP(幹)細胞がT細胞から出来たモノ*1で、もともとT細胞に混じっていた多能性幹細胞ではない事を立証しないといけない。

2. STAP(幹)細胞はT細胞から出来たモノか?

(1)に関しては、多能性細胞の印となるOct4 発光(発現)が観測されたこと、STAP幹細胞からクローン・マウスの作成に成功したこと、STAP幹細胞を生きたマウスに注入したところ筋肉や膵臓などの奇形腫(テラトーマ)が出来たことなどから主張される。テラトーマに関しては他の研究の写真が流用されている事が確認されたが、クローン・マウスの作成自体は疑われていない。ここで、(2)のSTAP(幹)細胞がT細胞から出来たモノかが鍵になる。

3. 電気泳動実験でTCR再構成を確認できる

繰り返しになるが、他の細胞ではなくて、T細胞から出来たと言うのがポイントになる。T細胞はTCR再構成と言われるDNAの変化が発生している事が分かっている。つまり、STAP(幹)細胞がT細胞から出来たモノであれば、T細胞以外のDNAと比較すれば違いが出てくるわけだ*2。この違いの有無を観察する一つの方法が、電気泳動実験となる。

4. STAP幹細胞騒動に飛び込む前に見ておくべき動画

前置きが長くなったが、小保方STAP論文における電気泳動実験の重要性は理解してもらえたと思う。何か難しそうだな・・・と思っていたのだが、解説動画がアップロードされていた。薬剤などでバリエーションは色々とあるようだが、この動画で基本的な性質は理解できそうだ。

色々な薬剤を混ぜたり沸騰させたりしてDNA断片を電気泳動をさせるアガロース・ゲルを作る事から、実験時の状況に結果が変化しそうな事が分かる。ナレーションでもアガロース・ゲルの出来が重要だと指摘されている。同一実験の結果でないとアガロース・ゲルの出来が異なって、正しく比較は出来ないであろう。

5. 小保方STAP論文に関していえる事

小保方STAP論文では、複数実験の電気泳動実験を切り貼りしていた(Figure 1i)。理研のラボの機材を見ないと断定はできないが、これはかなりの問題行為だ。この動画にあるように高校生でも実験できる内容で、「電気泳動なるほどQ&A」などと言うマニアックな本も売っている電気泳動実験の素人でもすぐ理解できる注意事項を、小保方氏が分かってい無いとは考えづらい。また、理研も小保方氏の画像加工について、小保方氏らの説明を検討の上で「裏付けることはできなかった」と中間報告では結論している。状況からして、この責任は取らざるをえないであろう。

しかし、切り貼りで電気泳動像の見栄えが良くなったかと言うとそんな事も無く、何のために不正行為を実行したのかは推測不可能になっている(科学コミュニケーターブログ)。各所で言われている出身校の文化や任期付ポストの重圧が不正に駆り立てたと言う説明に説得力は無い。

上は中間報告の資料から作成した図だが、見栄え、悪くなっている気がしてならない。後から出てきたので、元画像の信憑性も疑念があるわけだが。

6. 良くある不正行為だが動機が不明

この電気泳動実験結果の不正は、論文捏造の一丁目一番地と言っていいぐらい鉄板のネタだそうで、昨年3月にNatureに掲載された論文も、画像流用と電気泳動バンド画像の不適切な切り貼りが理由で撤回されている(Twitter #1#2)。良くも悪くも行為は凡庸な事件に過ぎないようだ。

小保方STAP論文に関しては色々な角度から検証がされていて、電気泳動実験の画像だけが問題なわけではないが、この実験の概要を知っているだけで見えてくることも色々あるように思える。誰もが知る禁忌の行為を、目的不明で実行している。剽窃部分もそういう面があるのだが、単に業績欲しさに捏造をした・・・と言うのであればもっと上手く論文の見栄えをよくしたはずで、動機の推測がかなり難しい。

*1T細胞由来以外のSTAP(幹)細胞も実験で使われたようでもあるのだが、この場合は多能性(幹)細胞が誘導(induction)されたもので選択(selection)されたものではないことを立証できないので、そもそも実験計画に問題があることになる。

*2慶應大学 吉村研究室 - 最後にもう一度TCR」を参照。

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