2013年1月24日木曜日

需給ギャップの謎、もしくは名称問題、もしくはGDPギャップを知っているフリをするための知識

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ニューヨークタイムスも、ウォール・ストリート・ジャーナルも、新華社通信も、ロイターも、読売新聞も、産経新聞も、朝日新聞も、何と赤旗新聞も使っている需給ギャップ(GDPギャップ)だが、よくよく考えると、良く分からない指標だと言う話が上がっていた。

定義や計測方法に謎があるわけでは無い。「統計の計測誤差がわが国のGDPギャップに与える影響」と「GDPギャップと潜在成長率の新推計」を見ると、コブ=ダグラス型の生産関数*1を推定して、資本/労働稼働率が平均値*2である場合のGDPを「潜在GDP」として計算している事が分かる*3

発想としては、静学的なマクロ経済学の「完全雇用水準GDP」と現在のGDPとの間のギャップなのであろう。資本と労働を使い尽くすと言う発想があると思う。資本と労働は余っていないといけない。しかし動学的なマクロ経済学の均衡点との対応関係は良く分からない。基本的に労働も資本も需給均衡するように供給されるため、ギャップらしきモノが無い。

結局、何かのギャップではなくて、GDPへのトレンド(TFP成長率による影響)と、サイクル(資本や労働の稼働率による影響)の分解作業、つまりトレンドからの乖離を見ていると言う事のようだ。『GDPのトレンドとサイクルの分解作業に、随分ミスリーディングな名前を付けたというように個人的には理解しています』とは、マクロ経済学者の齋藤誠氏の弁である(Twitter)。

*1マクロ生産関数は特にコブ=ダグラス型である必要は無いようだが、もっと柔軟な関数にしても結果は変わらないそうだ。

*2「GDPギャップと潜在成長率の新推計」に、『資本投入ギャップは、実際の稼働率と平均稼働率の乖離を、製造業・非製造業別に求め、それらを資本ストックのウェイトで加重平均して算出した』『労働投入ギャップは、労働力率、就業率、1人当たり総労働時間(以下「労働時間」と略す)、のそれぞれについてのギャップ――何らかの意味での「平均」からの乖離――を求め、それら3つのギャップを合成した』とある。

*3大雑把に手順は次のようになる。まず、マクロ生産関数を推定する。log Y = log A + αlog γK + (1-α)log δL + εで、Yが産出量(GDP)、Aが技術、γが資本稼働率、Kが資本、δが労働稼働率、Lが生産年齢人口、αが資本分配率、εが誤差項になる。日銀の分析では、労働稼働率は労働力率×就業率×1人当たり総労働時間で計算されるようだ。就業率の計算には、UV分析による構造失業率の推定を用いる。また、Aはトレンド等を考慮し、log A = β0 + β1・tと表現される。tは時点を表す。実際の推定では上二式を連立させ、さらにYとY潜在=log A + αlog K + (1-α)log Lの差分を取った形式で推定式を出す。Y、K、L、α、γ、δ、tが必要な観測データになる。

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